帰る途中で無理に寄ってくれたんだ。
それを聞いた途端、胸が苦しくなって涙が出そうになったが、笑顔で見送りたくて、必死で涙を止めた。
「ケイン様、本当にありがとうございました。母の事で、どんなにケイン様に慰められたか。それに、ケイン様とのお話はいつもとても楽しくて、ケイン様の訪問が何よりの楽しみになっていました。隣国に戻られるのは寂しいですが、ケイン様のこれからのご活躍を楽しみにしたいと思います。どうか、お身体にお気を付けて、道中無事にお戻りになれるようお祈り申し上げます」
私は渾身のカーテシーをしながら、心を込めて挨拶をした。
ケイン様は、そんな私をとても優しく見守ってくれている。
「ありがとう、ルーシー。フフッ。全く7歳児とは思えない程の立派な口上だね。
ルーシーには、いつも何かと驚かされっぱなしだったよ。
でも、僕もとても楽しかった。ルーシー、僕達は友達だよね?
だから、さよならは言わないよ?
また、いつか何処かで会える事を楽しみにしてる。それまで元気でいてね。ルーシー」
そう言って、踵を返し帰ろうとするケイン様の後ろ姿を見ると、また涙が出そうになった。
「あ、そうだ」
するとケイン様が何か忘れ物のようで、こちらに振り向いて戻ってくる。
「?」
どうしたのかしらと、首を傾げていると、
「忘れ物」
とケイン様はそう言って……。
チュッ
……ん?
「また再会するっていう約束のしるしね」
そう言って、ケイン様は私のおでこに軽くキスをして、笑顔で帰って行った。
待って。
え、待って?
こ、これはおでこに何された?
いつまでもボーっと突っ立って、なかなか戻ってこない事を不思議に思ったジェシカが、私に近づいてきて、私の顔を見て叫ぶ。
「ど、どうされましたか、お嬢様!? お顔が真っ赤ですわよ!? まさか、知恵熱!?」
……なんでこの状態で知恵熱が出るのよ。
でも、あの場面をジェシカに見られていなかった事に、ホッとした。
「何でもない。戻るわよ」
そう言って、あの時の事は、自分だけの大切な秘密として、何事もなかったかのように屋敷に戻った。
