鏡の中の貴方が微笑んだ

年も開け2月。ここまで特になんの進展もなかったがまたこの時期がやってきた。

前は引かれてしまったので、今回はちゃんと恋愛経験豊富な妹に相談して決めることにした

「ねぇ、バレンタインにさ手作りチョコ作ったんだけど重いかな?」

「さすがに彼氏じゃないし手作りは重くない?」
と言われとりあえず作ったチョコを冷蔵庫の中にしまった。

初めて上手くできたチョコだったから
もしバレンタインで仲良くなれなら渡したいな─
心の中ではそう思っていた。


とりあえずコンビニでバレンタインならどこにでも見かけるような少し高級感のある袋に入ったチョコに私の気持ちを綴った手紙を入れ緊張した面持ちで仕事へと向かった。

今日は同じコースになるかな─
ドキドキしながら今日の班が書かれてるホワイトボードを見た
「・・・一緒じゃない 」
氷上 さんと私の名前は一緒のコースに載っていなかった。

いつもの如くここぞって時にやっぱりついてない私。
─神様に嫌われてるのかなぁ

しょんぼりしながら仕事を進める
氷上さん仕事早いから、私も頑張って早くおわらせよ
となんとか気合いを入れいつもより少し早く終わり
「休憩行ってきます!」とリーダとにつげ駆け足で休憩へと向かう。

氷上さんいるかな。もしいたらなんて声を掛けようかな─なんて少し期待しつつ休憩室の扉を開けるが休憩室にいなかった。

でも、ここで諦めて渡せなかったらきっと後悔すると思った私はデスクの上に紙袋を置いて持って帰ってくれますように!と願って仕事へ戻った。

そして仕事終わり
氷上さんのほうがあがるのが早いので、持って帰ってくれてるかな?とチラッとデスクをみると紙袋がなかったから気づいてくれたみたい。

ほっとしつつチョコレートみてどう思ったんだろ。手紙みてくれたかなと私は淡く微笑んだ。

でも、それから何日経ってもチョコのことについて、何も話さない氷上さん。

コースも同じ班ではないし、話しかける暇がないのかなと思いつつ、時間が経つにつれて何も言及しないってことはやっぱり─

振られるのを待ってるだけなのかと思うと何も聞きたくなくなってしまった。

むしろそのことについて触れられるのが怖い自分がいた。

逆に振られるくらいなら話しかけられませんようにと思っていながら仕分けを進めていると

氷上さんに
「あのさ、今ちょっといい?」と突然横から声をかけられた。

あぁついに振られるのかなと思う反面少しの期待を抱きつつ

「あ、大丈夫ですよ!」と仕分けの手を止め氷上さんのほうを向く

氷上さんは面映ゆそうに視線を逸らしつつ
「チョコありがとう。気持ちは嬉しいけど、俺誰とも付き合う気ないんだよね笑」

「でも、チョコはありがとね」と言われてしまった

その後私がなんて言ったかは覚えていない

そうだよね、やっぱ30歳も離れてるなんて1歩違えば娘みたいだし私の事なんて好きになってくれる訳無いよね

これからどうしよ

でも、振られてもやっぱりまだ好きで

妹に
「振られちゃってさ、これからどうしたらいいと思う?」とLINEすると

「よそよそしかったら気使うからいつも通りのほうが1番いいんじゃない?」と返ってきた。

確かに暗い顔してるとこなんて見せたら気を使わせてしまうだろうなと思って次の日

涙を呑み笑顔で挨拶した。

「おはようございます!」

「…おはよう」
相変わらず挨拶は素っ気ないしニコリともしない

いつも全然合わないのに振られた時に限って会うみたいでこの日は珍しく同じ班だった。

沈黙も気まづいし、いっそ好きな気持ちを隠さず取り繕わないでいようと思い

「そういえば 氷上さんって彼女いたことあるんですか?」
と私は話す

氷上さんは少しはにかみながら
「昔にね笑」と一言

─やっぱいたことあったんだなと妙に納得しながら仕分けを進めていると

あ、そういえば─
私はふと家にご飯を置いてしまったのを仕事にきてから思い出した。

「 氷上さん。そういえば、私ご飯忘れてきちゃったみたいでお金も持ってきてなくて」と焦る私をみて
さんは
「俺のカップ麺でよかったらあげるよ」と

「いいんですか?そしたら氷上さんのご飯無くなりませんか?」

「カップ麺ならいっぱいあるし大丈夫だよ」

「1つあげるから一緒に休憩行こう」と
私に対して優しく話しかける氷上さん。

あれ、もしかして私に気使って優しくしてくれてるのかな?
なんて思いつつ さんと同じ時間に休憩入るなら私も仕事追いつけるように頑張らなくちゃと一生懸命やるが一向に終わらず
これじゃ同じ時間に休憩いけないと困っていると

自分の仕事を先に終わらせた氷上さんが、何も言わず残っていた台車に手を伸ばし手伝ってくれて
「あ、ありがとうございます」と言うとニコッと微笑んだ。

私のこと振ってるのになんで優しくするんだろ?
振られてるのに優しくされたら辛くなるはずなのに私の事を思って手伝ってくれたことが単純に嬉しかった。


あれから 氷上さんと私は休憩時間にお菓子交換したり告白する前よりも少しだけ仲良くなっていった。

「そういえば、この前 氷上さんがくれたチョコの新しい味出てたんですけど1つどうですか?」

「ありがと笑 」
「これ俺が買ったチョコのほうが美味しい気がする」

「え、こっちも美味しくないですか?」

「なんて言うか後々くどくない?笑」

「あー確かに言われてみたらちょっと甘すぎるかもしれないですね笑」
なんて他愛もない話をしたり。

でも、氷上さんのほうからあまり話しかけられることもないので仕事以外の話題を投げかけるのはいつも私からだった。

仕事でも同じ班になることが少なく話すタイミングもない。

そんな風にすれ違いが続き、徐々に2人の距離は離れていった。

そして暖かくなりだした3月の終わりくらいの頃
氷上さんの同僚の成瀬 さんから
「あいつ仕事やめるの知ってる?」と言う話を耳にした
「え、そうなんですか」
薄々社員さんと話をしてるとこも見たし
驚いたというよりなんとなくそんな感じはしてた。

「なんでも職場変えたい。って話しててさ」
そうだったんだ。まぁ時給の割にハードだなとは私も思っていたけれど

まさか辞めるなんて─

「桜蘭!おはよ」
「 氷上さん辞めるって聞いたけど桜蘭 さんのこと好きだったんでしょ?大丈夫?」
「…はい。まだ実感湧かないですけど大丈夫です」

複雑な顔をしていた私を見兼ねてコースの班を決めるリーダーが私と氷上 さんを同じコースにしてくれた。

「おはようございます」
「…おはよ」

氷上さん仕事辞めちゃうんですか?

「前々から言ってはいたんだけど転職してみたくてちょっとね」

「氷上さんともう会えなくなっちゃうんですか?」

「ここには、もう戻ってこないよ笑」
そう苦笑いしながら話す氷上さん

私はついうっかり
「氷上さん居なくなったら寂しくなりますね」と思っていたことが口に出てしまった

氷上さんは一瞬動揺して
「えっ笑」と止まったあと
視線を逸らしながら面映ゆい表情を浮かべ
照れたように笑った。

私は氷上さんの照れた顔を見て胸がドキッと高鳴る。

そんな顔されたらもっと 氷上さんのことを好きになってしまいそうになる。

これ以上好きになったら迷惑だろうから好きになっちゃいけないのに─

その次の日も氷上さんと同じ班だった。

でも、今日の氷上さんはいつも以上に生気のない表情をしていてどこか疲れきってるような雰囲気だった。

私は 氷上さんの仕事の負担を少しでも減らせたらと思って、いつもより仕事を急ぎ足で進めるが、やはりミスの多い私は空回りしてしまう。

「雪白さん。ちょっといい?」
「これ、こういう置き方したら商品潰れるって前も教えたのに」

焦っていた私は取り繕った笑顔で
「すみません。すぐ直します」
と応えると少し仏頂面で私に目もくれず黙々と仕事を続けた。


私はショックのあまり頭が真っ白になった。
そして悲しくなった。

氷上さんにつれない態度を取られたから悲しい訳じゃない。仕事の負担になってる自分の無力さにやるせない気持ちを覚えた。

そして仕事が終わるまでほぼ業務連絡の受け答えしかせず氷上さんが帰る時間になってしまい

帰る間際、私は
「そういえば、この前氷上さんが食べたいって言ってたお菓子見つけたんですよ」

「仕事辞める前に買ってきますよ!」
と拙い笑顔で話しかけるが
「ありがとう。でも大丈夫だよ」とあしらわれてしまった。

そして
「お疲れ様。じゃあね」と帰る 氷上さんを追いかけたかったがなんて言葉をかけたらいいか分からなくて
「お疲れ様です」としか言えず
後ろ姿を遠くから見ているしか出来なかった。

そして氷上さんと職場で交わした会話はこの日が最後だった。

週明けの月曜日。玄関の靴箱をチラッとみるも 氷上さんの名前はなくは別の人の名札が貼ってあった。

─私に何も言わないで辞めちゃったんだな

私は成瀬さんのいる班のとこまで行き
「 氷上さん先週で辞めちゃったんですか?」と問いかけると

「うん、なんか俺にもなんも言わないで辞めちゃってさ」と寂しそうに笑った。

そうだったんだ─

転職してみたいとは言ってたけれど私が告白したから面倒になってやめたのかな
やっぱり心の内に思いをしまって置けばよかった。

でも、告白しなかったらきっと前みたく後悔してただろうな

だから好きってこと伝えられたし後悔はしてないはずなんだけど
─でも

仕事に行こうと重い腰をあげ
身支度をし、鍵をかけて外に出る。

空はどんよりと暗雲が垂れこめ今にも降り出しそうな天気をしている。

まるで今にも泣き出しそうな私の心を映し出してるみたいだ。

歩いてしばらくするとポツポツと雨が降ってきて私の頬を伝った。

戻るには遠く傘を買う気力も残ってない私は傘もささずそのままバス停まで歩き続けた。