君の雪は解けない


深く頷いた伊吹を見て、眞雪は僅かに逡巡する素振りを見せた。

が、それは本当に一瞬で、
今度は投げやりに白藍の瞳を伏せる。


「仕方ないな、分かっ——」


たよ、という2音は続かなかった。

誰のものだか分からない着信音が、それを遮った。


「⋯⋯なに?」


心底面倒臭そうに低く呟いた声を皮切りに、眞雪は発信源を手に取る。

どうやらこの音は彼の携帯から鳴っているらしい。


会話の内容こそ聞こえないが、
何か危なげな話をしていそうな様子だ。

会話の節々に物騒なワードが登場し、その度に伊吹の肩が揺れる。

‟始末”

聞き慣れないワードに、
なんだ、それ、と思うしかなかった。


ピッ、と音を立てて電話を切った眞雪は無言で席を立つ。


「用事できたから、早退するね」


その優美な微笑みは、伊吹達に有無を言わせなかった。