君の雪は解けない

(⋯⋯と、)
香りになど気を取られている場合ではない。


「おい、鳳 眞雪」


これほど美しい人間ならば、あっという間にクラスの人気者になるのが目に見えている。
⋯⋯なら、先に声をかければいい。

この学校の王者は白蓮なのだから、
そのトップである自分が声をかけてしまえば他の生徒は遠慮するだろう。


その程度の軽い気持ちだったが、鳳は予想外の行動に出た。


「なに?二ノ宮 伊吹くん」


机に貼ってある名札をとんとん、と指の腹で叩き、にっこりと笑った鳳。

今にも消えてしまいそうな印象とは裏腹に案外度胸がある。
少々驚いたが、単に白蓮を知らない可能性もあるため、どうということはない。

⋯⋯だが。
(笑っているのに、このささくれのような緊張感はなんだ)

伊吹は思わず顔を顰めた。

こんなタイプには出会ったことがない。


愛想良く微笑み続ける鳳を前に、伊吹は居心地が悪くなり、教室を抜けた。