君の雪は解けない


「⋯⋯スパイ、ということですか。でなければ理由が無いと思うのですが」

「理由など、俺が命じただけで充分だと思うが」


「⋯若、まさかとは思いますが、今日(こんにち)から、なんてことは———」


ふ、と思い当たった可能性を恐る恐る問うと、


「ああ、今日(こんにち)からだが?」


嫌な想像が現実になってしまい、思わず狼狽(うろた)える。


ふと時計を見やれば、確かに今は朝の4時。

この状況からすると一般的な学校は、もう少し遅い時間なのだろうか、と思考を巡らせた。


「⋯⋯承知致しました」


じい、と穴が開くほど男を見つめても、男の笑みは寸分も動かない。

眞雪は大人しく観念した。


男はその様子に満足そうに微笑み、眞雪に背を向ける。

もう用は終わったということだろう、と眞雪は再度(こうべ)を垂れた。


「では、失礼します」