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「⋯⋯若。それはご冗談、ですよね」
今しがた信じられないことを聞いた眞雪は、思わず眉を顰めた。
対照的に、若、と仰々しく呼ばれたその男は、何とも愉快そうに笑む。
「無論、冗談などではないが?俺がそのような悪趣味な冗談を笑うとでも」
「いえ、そういうわけではないのですけれど。
ただ———おれが学校に行く、とは真でしょうか。」
‟学校に行く“
それが、長年の付き合いとなるこの男から、今回命じられたことだった。
もし他のことであれば何であっても何の躊躇いなど無く遂行できるのだが、
眞雪にとって学校とは忌み嫌うものであり、一生縁が無いと考えていた場所。
(⋯そもそも、若とて学校になど行ったことがないと分かっているのに、どうして)
突然命じられたことにより、眞雪はひどく混乱していた。

