[簾Side]
♢
眞雪の様子がおかしい。
気付いたのは、ごく最近のことだ。
話しかけても、貼り付けたような笑みを浮かべるだけ。
触られても、貼り付けような笑みを浮かべるだけ。
以前は、ごく自然な微笑みだった。
咲きかけの蕾が花開く瞬間の様な、美しく華やいだ笑みだった。
彼が何かにおいて、精神的に追い詰められているのは、見て取れる。
ともすれば、その表情が時折苦し気に歪められることを、簾は知っていた。
「明らかに、何かあったよね」
そう感じていたのは、やはり簾だけではないようで、
緊急で眞雪以外の5人で会議をすることになった。
幹部たちは、簾の言葉に重く頷く。
「軌然会の件だろうか⋯⋯でも、余裕綽々な風だったが」
「それじゃ、ない気がする」
もっと、眞雪の根底を支配する、何か———
そうは思うものの、その‟何か”を見つけられていないことは確かだった。
「⋯⋯まゆくんは、何も見せてくれない」
息を吐くように無意識に出たそれは、簾が前々から思っていたこと。
‟何も見せてくれない”———正確には、過去は話してくれたけれど、そこに絡む彼自身の感情だとか、もっと奥深い事実だとか。
そういった、ある程度までは開示してくれるのだが、
それ以上は踏み込ませてもくれない。
それは、まだ眞雪自身が白蓮を仲間として認めていない心の表れだった。
「一体、何を隠しているの⋯⋯?」
何かを懇願するように、息を吐いて言葉が出る。
幹部室は、水を打ったかのように静まり返る。
物音一つさえ聞こえない。
簾は、そっと静かに目を瞑る。
そして彼は、これまでの眞雪の行動と、
様子が可笑しくなったタイミングを思案した。
当初の余所余所しい態度、
飴を口にして片頬がふくらんだ様子、
常人より遥かに近い距離感、
物騒なワードも平気で音にする唇、
軽口も叩けるようになって近づいた距離、
近距離で見た艶麗な眼差し、
動く度に揺れる特徴的で甘やかな香り、
あまりにも強すぎる喧嘩の腕前、
たおやかさの裏に隠された正体、
告げられる過去、
よく目にするようになった華やぐ笑み、
そして最近 時折見せる、眉を寄せた表情————
時系列に並べていっても、
簾が思い出すのはありきたりな日常ばかり。
その中には、精神的に余裕がある彼しか存在していなかった。
「⋯⋯待っているばかりじゃ、いけないのかもな」
ぽつりと、伊吹の口からそんな言葉が、しかめっ面と共に溢される。
彼は、誰かに言っているのではなく、
ただただ迷いと懇願に似た何かをそれに込めて、発しているだけにすぎなかった。
「
♢
眞雪の様子がおかしい。
気付いたのは、ごく最近のことだ。
話しかけても、貼り付けたような笑みを浮かべるだけ。
触られても、貼り付けような笑みを浮かべるだけ。
以前は、ごく自然な微笑みだった。
咲きかけの蕾が花開く瞬間の様な、美しく華やいだ笑みだった。
彼が何かにおいて、精神的に追い詰められているのは、見て取れる。
ともすれば、その表情が時折苦し気に歪められることを、簾は知っていた。
「明らかに、何かあったよね」
そう感じていたのは、やはり簾だけではないようで、
緊急で眞雪以外の5人で会議をすることになった。
幹部たちは、簾の言葉に重く頷く。
「軌然会の件だろうか⋯⋯でも、余裕綽々な風だったが」
「それじゃ、ない気がする」
もっと、眞雪の根底を支配する、何か———
そうは思うものの、その‟何か”を見つけられていないことは確かだった。
「⋯⋯まゆくんは、何も見せてくれない」
息を吐くように無意識に出たそれは、簾が前々から思っていたこと。
‟何も見せてくれない”———正確には、過去は話してくれたけれど、そこに絡む彼自身の感情だとか、もっと奥深い事実だとか。
そういった、ある程度までは開示してくれるのだが、
それ以上は踏み込ませてもくれない。
それは、まだ眞雪自身が白蓮を仲間として認めていない心の表れだった。
「一体、何を隠しているの⋯⋯?」
何かを懇願するように、息を吐いて言葉が出る。
幹部室は、水を打ったかのように静まり返る。
物音一つさえ聞こえない。
簾は、そっと静かに目を瞑る。
そして彼は、これまでの眞雪の行動と、
様子が可笑しくなったタイミングを思案した。
当初の余所余所しい態度、
飴を口にして片頬がふくらんだ様子、
常人より遥かに近い距離感、
物騒なワードも平気で音にする唇、
軽口も叩けるようになって近づいた距離、
近距離で見た艶麗な眼差し、
動く度に揺れる特徴的で甘やかな香り、
あまりにも強すぎる喧嘩の腕前、
たおやかさの裏に隠された正体、
告げられる過去、
よく目にするようになった華やぐ笑み、
そして最近 時折見せる、眉を寄せた表情————
時系列に並べていっても、
簾が思い出すのはありきたりな日常ばかり。
その中には、精神的に余裕がある彼しか存在していなかった。
「⋯⋯待っているばかりじゃ、いけないのかもな」
ぽつりと、伊吹の口からそんな言葉が、しかめっ面と共に溢される。
彼は、誰かに言っているのではなく、
ただただ迷いと懇願に似た何かをそれに込めて、発しているだけにすぎなかった。
「

