[?Side]
♢
近頃、男は行き場のない悪夢に悩まされていた。
今日も、寝台から飛び起きる。
昨日も、今日も、明日も、明後日も———
ただ永遠と続くだけの夢。
同じ内容をひたすら繰り返すだけの、面白みに欠けた夢。
その夢は、男をひどく狂わせた。
「は、ぁ⋯⋯っ、は、」
自身の息遣いが、妙に体内に響く。
こんなことは些事だ。
日常茶飯事だ。
そう言い聞かせても、がたがたと小刻みに振動する彼の体は、言うことを聞かなかった。
それどころか、この荒い息でさえも落ち着かない。
男の荒ぶった感情は数刻後にやっと鎮まり、
顔を片手で覆った。
「はあ⋯⋯」
今度は、れっきとしたため息。
彼の声音には「またやってしまった」という自分に対する失望が、浮かんでは消えている。
男は、独りだった。
元々はそうでなくとも、今がそうなのは間違いない。
自分から、離れたから。
自分が悪いのなど百も承知。
⋯⋯ああ。
今日も、同じ、だった。
毎夜のごとく見る夢の内容は、
不思議なことに寸分も違わない。
男にとっては、永遠と嫌な記憶をリフレインさせられて、
ただの辛い経験でしかない。
毎朝同じように目が覚めたときの絶望感は、計り知れなかった。
「リン、これ、ここに置いておいて良い?」
部屋の扉から、胡桃色の頭だけが顔を覗く。
‟リン”
男は彼をそう呼んだけれど、
別にそれが彼の名前だというわけではなかった。
ただの偽名。
素性も隠して、普通の人間に擬態しているだけ。
「⋯⋯いいですよ」
「あは、ほんとお前つれねぇなあ」
男はへら、と笑い、頭をひっこめた。
この男は、彼の同居人だ。
特徴的な胡桃色のくせっ毛は、
彼の記憶の中にいる、ある人物を想起させる。
ウマが合わないのは見て取れるだろうが、
そこは成り行きでなってしまったので、仕方がない。
彼は独り言の一つも溢さず、黙々と外出の準備を進めた。
「⋯ユイ。
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近頃、男は行き場のない悪夢に悩まされていた。
今日も、寝台から飛び起きる。
昨日も、今日も、明日も、明後日も———
ただ永遠と続くだけの夢。
同じ内容をひたすら繰り返すだけの、面白みに欠けた夢。
その夢は、男をひどく狂わせた。
「は、ぁ⋯⋯っ、は、」
自身の息遣いが、妙に体内に響く。
こんなことは些事だ。
日常茶飯事だ。
そう言い聞かせても、がたがたと小刻みに振動する彼の体は、言うことを聞かなかった。
それどころか、この荒い息でさえも落ち着かない。
男の荒ぶった感情は数刻後にやっと鎮まり、
顔を片手で覆った。
「はあ⋯⋯」
今度は、れっきとしたため息。
彼の声音には「またやってしまった」という自分に対する失望が、浮かんでは消えている。
男は、独りだった。
元々はそうでなくとも、今がそうなのは間違いない。
自分から、離れたから。
自分が悪いのなど百も承知。
⋯⋯ああ。
今日も、同じ、だった。
毎夜のごとく見る夢の内容は、
不思議なことに寸分も違わない。
男にとっては、永遠と嫌な記憶をリフレインさせられて、
ただの辛い経験でしかない。
毎朝同じように目が覚めたときの絶望感は、計り知れなかった。
「リン、これ、ここに置いておいて良い?」
部屋の扉から、胡桃色の頭だけが顔を覗く。
‟リン”
男は彼をそう呼んだけれど、
別にそれが彼の名前だというわけではなかった。
ただの偽名。
素性も隠して、普通の人間に擬態しているだけ。
「⋯⋯いいですよ」
「あは、ほんとお前つれねぇなあ」
男はへら、と笑い、頭をひっこめた。
この男は、彼の同居人だ。
特徴的な胡桃色のくせっ毛は、
彼の記憶の中にいる、ある人物を想起させる。
ウマが合わないのは見て取れるだろうが、
そこは成り行きでなってしまったので、仕方がない。
彼は独り言の一つも溢さず、黙々と外出の準備を進めた。
「⋯ユイ。

