君の雪は解けない

[?Side]






近頃、男は行き場のない悪夢に悩まされていた。
今日も、寝台から飛び起きる。

昨日も、今日も、明日も、明後日も———

ただ永遠と続くだけの夢。
同じ内容をひたすら繰り返すだけの、面白みに欠けた夢。

その夢は、男をひどく狂わせた。


「は、ぁ⋯⋯っ、は、」


自身の息遣いが、妙に体内に響く。

こんなことは些事だ。
日常茶飯事だ。

そう言い聞かせても、がたがたと小刻みに振動する彼の体は、言うことを聞かなかった。

それどころか、この荒い息でさえも落ち着かない。

男の荒ぶった感情は数刻後にやっと鎮まり、
顔を片手で覆った。


「はあ⋯⋯」


今度は、れっきとしたため息。

彼の声音には「またやってしまった」という自分に対する失望が、浮かんでは消えている。

男は、独りだった。
元々はそうでなくとも、今がそうなのは間違いない。

自分から、離れたから。
自分が悪いのなど百も承知。

⋯⋯ああ。

今日も、同じ、だった。

毎夜のごとく見る夢の内容は、
不思議なことに寸分も違わない。

男にとっては、永遠と嫌な記憶をリフレインさせられて、
ただの辛い経験でしかない。

毎朝同じように目が覚めたときの絶望感は、計り知れなかった。


「リン、これ、ここに置いておいて良い?」


部屋の扉から、胡桃色の頭だけが顔を覗く。

‟リン”

男は彼をそう呼んだけれど、
別にそれが彼の名前だというわけではなかった。

ただの偽名。
素性も隠して、普通の人間に擬態しているだけ。


「⋯⋯いいですよ」

「あは、ほんとお前つれねぇなあ」


男はへら、と笑い、頭をひっこめた。

この男は、彼の同居人だ。

特徴的な胡桃色のくせっ毛は、
彼の記憶の中にいる、ある人物を想起させる。

ウマが合わないのは見て取れるだろうが、
そこは成り行きでなってしまったので、仕方がない。


彼は独り言の一つも溢さず、黙々と外出の準備を進めた。


「⋯ユイ。