今まで聞いたことのないような超高音を聞いた。白鳥が最期の悲鳴を上げるような。
一瞬、気を失っていたらしい。気がついたら、君が必死の形相で私を見おろしていた。いとうように。
「息を吸え」
君はもう一度、今度はゆっくりとそう言った。ポケットに常備しているビニール袋でさっと空気をひろい、ふくらませて私の口に当てる。
「大丈夫。ゆっくり。ゆっくり」
君の太い腕が私の頭を支える。私をひざに乗せて。細く見える脚にもしっかり筋肉がついている。息苦しさが少し薄れた。安心感で。(誰かの体温と息づかいで)
心臓が狂ったような音を立てていた。フラメンコギターのように鳴り響いていた。超高熱の超光速で。呼吸も。
しばらく私はビニール袋の中の二酸化炭素を吸っていた。彼の(私の)体内をさっきまで血液とともにめぐっていた気体を。まだ見ぬ場所の音とにおいと憂いと美しさをたっぷりとふくんだものを。
しばらく彼は私をじっと抱いていた。私よりずっと低い体温は夏の終わりのそよ風のように切なかった。だけど、そばにいてほしかった。今だけは。いまだけは。
(失いたくないのは情熱だ。ダンスへの。超高熱の日々)
それは「執着」とも言える究極のエゴイズムだ。言い換えれば「愛」。
(何かを失うことを恐れながら生きている。血と魂と努力の結晶とも言えるその「何か」を)
「無理をすることは美徳じゃ、ない」
君のほうが息苦しさを感じる声だった。バリトンに近いテノールがかわいていた。からからにかわいてひびわれていた。
「無理をしないと上に行けないのはわかってる。
でも、無理をしてほしくないと願うことも許されないか」
一瞬、気を失っていたらしい。気がついたら、君が必死の形相で私を見おろしていた。いとうように。
「息を吸え」
君はもう一度、今度はゆっくりとそう言った。ポケットに常備しているビニール袋でさっと空気をひろい、ふくらませて私の口に当てる。
「大丈夫。ゆっくり。ゆっくり」
君の太い腕が私の頭を支える。私をひざに乗せて。細く見える脚にもしっかり筋肉がついている。息苦しさが少し薄れた。安心感で。(誰かの体温と息づかいで)
心臓が狂ったような音を立てていた。フラメンコギターのように鳴り響いていた。超高熱の超光速で。呼吸も。
しばらく私はビニール袋の中の二酸化炭素を吸っていた。彼の(私の)体内をさっきまで血液とともにめぐっていた気体を。まだ見ぬ場所の音とにおいと憂いと美しさをたっぷりとふくんだものを。
しばらく彼は私をじっと抱いていた。私よりずっと低い体温は夏の終わりのそよ風のように切なかった。だけど、そばにいてほしかった。今だけは。いまだけは。
(失いたくないのは情熱だ。ダンスへの。超高熱の日々)
それは「執着」とも言える究極のエゴイズムだ。言い換えれば「愛」。
(何かを失うことを恐れながら生きている。血と魂と努力の結晶とも言えるその「何か」を)
「無理をすることは美徳じゃ、ない」
君のほうが息苦しさを感じる声だった。バリトンに近いテノールがかわいていた。からからにかわいてひびわれていた。
「無理をしないと上に行けないのはわかってる。
でも、無理をしてほしくないと願うことも許されないか」



