屋上へとあと一歩の階段の上で、彼は一言一言をゆっくりと噛みしめるように言った。バリトンに近いテノールの少し湿った声で。あめ色のアコースティックギターをつま弾きながら。

屋上のドアについた四角の曇りガラスがほんのりと金色に光っていた。とてもとても寒くて冷たい日でも、夕焼けは光る。またあした、とでも言いたげに。そしてその夕焼けに音をつけたような君のギター。その横で「チェアー」を練習する私。両手をクリーム色の床につけて、右頬もつけて両脚は軽く曲げて上げる。フリーズは何秒持つか。

君の黒いストレートの前髪は内部がうっすら紫色に染まっている。横はサーモンピンクと若草色と藤色のパッチンとしたピンで留めている。色白。細面。なよやかではかないイメージを持たせる美少年は、授業中はきっちりと模範的な着こなしをしている深緑色のブレザーを脱ぎ、2年生を示す赤のタータンチェックのネクタイをゆるめ、白いワイシャツのボタンをふたつあけていた。そこから鎖骨に貼ったタトゥーシールが見えていた。「I Love... 」と黒い筆記体で書かれた。

大きめの濃紺チェックのパンツに包まれた長く細い脚をゆったりと組み、アコースティックギターを大事そうに抱いている。ふんわりとした柔和さがあるのに、まくったそでから見える筋肉はムキムキだ。指も太い。小さい頃からギターを弾きつづけて指先は硬い。どっしりとした年季を感じる指。爪は常にネイルオイルとマニキュアで保護されている。今日は自然なピンクに塗られている。色を入れているとは気づかれないだろう。

「週末、行ったの。ダンスバトル」
「うん」
「楽しかった?」
「うん」

「そう」