その後着替えて食事を摂った後、私たちは談話室を訪れる。
そこにはのんびりとくつろいだ姿で先代様が座っていた。先代様も公爵様も既に簡素な装いで、二人とも白いシャツと黒いズボンだ。シャツのボタンを全て閉めている公爵様と、ボタンを二つほど開けている先代様。各々の性格がなんとなく分かる気がする。
私たちが近づくと、先代様は軽く手を挙げた。少し顔が赤くなっているところを見ると、お酒を嗜まれているようだ。隣で公爵様が、頭を抱えている。
「父上、飲み過ぎではありませんか?」
「これくらい問題ないわ! 儂が昔、底なし盃のデイモンと呼ばれていたからな!」
「父上は療養で領地へと戻った事になっているではありませんか……」
目を細めてじっと先代様を見つめる公爵様。先代様は彼の視線に怯む事はなく、言い切った。
「療養して元気になったからお酒を嗜んでおる!」
「はぁ、ああ言えばこう言う……」
公爵様も先代様に元気でいて欲しいのだろう。その気持ちはとてもよく分かる。
「デイモン様、飲み過ぎないようにお気をつけください」
私がにっこりとお伝えすると、先代様は一瞬目を見開いた後、笑って告げた。
「そうだな。儂も若くない。そこは気をつけよう」
次に彼が頼んだのは湯冷まし。公爵様はあまりのことに言葉を失うほど驚いていた。後で公爵様が教えてくださったのだけれど……先代様は人の言う事を聞かない方であると周知されているらしい。
そんな方が私の話を聞いたのだから、公爵様は目を見張ったという事だ。そんな彼の様子を見て、先代様は笑って言った。
「いやぁ、こんな可愛らしいお嬢さんが儂の息子と婚約してくれたんだ。孫を見るまでは、生き続けなければなぁ!」
「……父上、気が早くありませんか?」
孫、という言葉に私の頬は熱を持つ。ジオドリックとの婚約は義務だから、とずっと言い聞かせていたけれど……公爵様との婚約は心穏やかに受け入れることができている気がする。
「こんなにめでたい日はない……バレンティナ元皇女殿下のお嬢様を我が家にお迎えできるとは……この日をどれだけ待ち望んでいたか、息子には分かるまい」
「……ありがとうございます」
先代様は母の予言をご存じだったのだ。だから先ほど迎え入れた時の表情が感極まっていたように見えたのだろう。先代様も快く私を受け入れてくださった事を知り、胸から温かい何かがあふれてきたような気がする。
「私も……こちらに嫁ぐ事ができて嬉しく思います」
私も何か胸に迫るものがあったからか、言葉が無意識に口から出る。その言葉を聞いて、私は改めて自分の考えが理解できたような気がした。ジオドリックとの婚約は、辛かったのだ。虐げられ、見下され、仕事を押し付けられ……最後は心が何も感じなくなっていたように思う。
でも公爵様は違った。彼を知った今なら分かる。もし、ブレンダがここにいたとしても、彼は丁重に扱ってくれるだろうと。
一瞬公爵様とブレンダが仲睦まじく二人で立っている姿が頭に浮かぶ。そんな二人の姿に胸がざわつく。だから私は気づいていなかった。隣に座っていた公爵様が目を見開いてこちらを見ていた事に。
「ガハハハ! そう言ってもらえると、こちらも嬉しいですな! 儂の息子は迷惑を掛けていませんかね?」
先代様の笑い声で私は意識を取り戻す。
「いえ、むしろ私がご迷惑をお掛けしております……」
魔力切れを起こした時など、お姫様抱っこで部屋まで連れて行ってくださったのだから。その時の温もりを思い出してしまい、また頬に熱が集まってきているような気がする。
そんな私の様子に気づいているのか、気づいていないのか……先代様は大笑いして話す。
「息子に迷惑を掛けても問題ないですぞ! ガサツな儂とは違って、そういうところはしっかりしておりますからな!」
色々言われて耳が痛いくらいですな、と肩をすくめる先代様。それに頭を抱えて反論する公爵様。そんな二人のやり取りを見守る私。二人の様子に私の口角は、ずっと上がりっぱなしだった。
そこにはのんびりとくつろいだ姿で先代様が座っていた。先代様も公爵様も既に簡素な装いで、二人とも白いシャツと黒いズボンだ。シャツのボタンを全て閉めている公爵様と、ボタンを二つほど開けている先代様。各々の性格がなんとなく分かる気がする。
私たちが近づくと、先代様は軽く手を挙げた。少し顔が赤くなっているところを見ると、お酒を嗜まれているようだ。隣で公爵様が、頭を抱えている。
「父上、飲み過ぎではありませんか?」
「これくらい問題ないわ! 儂が昔、底なし盃のデイモンと呼ばれていたからな!」
「父上は療養で領地へと戻った事になっているではありませんか……」
目を細めてじっと先代様を見つめる公爵様。先代様は彼の視線に怯む事はなく、言い切った。
「療養して元気になったからお酒を嗜んでおる!」
「はぁ、ああ言えばこう言う……」
公爵様も先代様に元気でいて欲しいのだろう。その気持ちはとてもよく分かる。
「デイモン様、飲み過ぎないようにお気をつけください」
私がにっこりとお伝えすると、先代様は一瞬目を見開いた後、笑って告げた。
「そうだな。儂も若くない。そこは気をつけよう」
次に彼が頼んだのは湯冷まし。公爵様はあまりのことに言葉を失うほど驚いていた。後で公爵様が教えてくださったのだけれど……先代様は人の言う事を聞かない方であると周知されているらしい。
そんな方が私の話を聞いたのだから、公爵様は目を見張ったという事だ。そんな彼の様子を見て、先代様は笑って言った。
「いやぁ、こんな可愛らしいお嬢さんが儂の息子と婚約してくれたんだ。孫を見るまでは、生き続けなければなぁ!」
「……父上、気が早くありませんか?」
孫、という言葉に私の頬は熱を持つ。ジオドリックとの婚約は義務だから、とずっと言い聞かせていたけれど……公爵様との婚約は心穏やかに受け入れることができている気がする。
「こんなにめでたい日はない……バレンティナ元皇女殿下のお嬢様を我が家にお迎えできるとは……この日をどれだけ待ち望んでいたか、息子には分かるまい」
「……ありがとうございます」
先代様は母の予言をご存じだったのだ。だから先ほど迎え入れた時の表情が感極まっていたように見えたのだろう。先代様も快く私を受け入れてくださった事を知り、胸から温かい何かがあふれてきたような気がする。
「私も……こちらに嫁ぐ事ができて嬉しく思います」
私も何か胸に迫るものがあったからか、言葉が無意識に口から出る。その言葉を聞いて、私は改めて自分の考えが理解できたような気がした。ジオドリックとの婚約は、辛かったのだ。虐げられ、見下され、仕事を押し付けられ……最後は心が何も感じなくなっていたように思う。
でも公爵様は違った。彼を知った今なら分かる。もし、ブレンダがここにいたとしても、彼は丁重に扱ってくれるだろうと。
一瞬公爵様とブレンダが仲睦まじく二人で立っている姿が頭に浮かぶ。そんな二人の姿に胸がざわつく。だから私は気づいていなかった。隣に座っていた公爵様が目を見開いてこちらを見ていた事に。
「ガハハハ! そう言ってもらえると、こちらも嬉しいですな! 儂の息子は迷惑を掛けていませんかね?」
先代様の笑い声で私は意識を取り戻す。
「いえ、むしろ私がご迷惑をお掛けしております……」
魔力切れを起こした時など、お姫様抱っこで部屋まで連れて行ってくださったのだから。その時の温もりを思い出してしまい、また頬に熱が集まってきているような気がする。
そんな私の様子に気づいているのか、気づいていないのか……先代様は大笑いして話す。
「息子に迷惑を掛けても問題ないですぞ! ガサツな儂とは違って、そういうところはしっかりしておりますからな!」
色々言われて耳が痛いくらいですな、と肩をすくめる先代様。それに頭を抱えて反論する公爵様。そんな二人のやり取りを見守る私。二人の様子に私の口角は、ずっと上がりっぱなしだった。


