そして数日後。
無事に任務を終え、一旦休憩している私の元にマルセナがやってくる。どうやら先代公爵様が夕方頃に屋敷へとたどり着くらしい。私は二人に手伝ってもらい、身支度をする。
そして陽が地平線に沈む頃、私たちは玄関前へと整列する。道の両側には槍を持った衛兵たちが並び、私と公爵様は一番奥……道の真ん中に立った。
普段は身軽なシャツとズボンだけを着ている公爵様だったが、今日は正装に身を包んでいる。後でマルセナに確認したところ、着ている服は公爵家私軍の軍服らしい。
黒地に金の装飾が施されている事もあり、夕日の光を浴びて輝いているように見えた。軍服にマントを着こなした公爵様は、普段以上に凛々しい。私が隣でいいのかしら、そう思い慌てて自分の服装を確認する。すると頭上から声が聞こえてきた。
「今日の服装も似合っている」
思わず顔を上げると、公爵様はすでに前を向かれていた。
馬の集団が公爵家の前に現れた。聞き間違いか、と思って私を前を向いた時……彼の耳がほんのり赤くなっているのが見える。きっと私を元気付けてくれたのだろう……と心の中で感謝を述べていると、門が開いた。
全員に緊張感が走る。改めて姿勢を正すと、遠くから馬のひずめの音が聞こえてきた。バラバラに聞こえるその音は段々大きくなったと思えば、少しずつ小さくなっていく。そしてひづめの音が聞こえなくなったその時――
「先代公爵デイモン閣下のご入場です!」
その声と同時に、ひづめの音を響かせながら騎乗した人々が門内へと入ってくる。そして最後に入ってきたお方……他の者よりも大きく黒い馬に乗っている壮年の男性が、きっと先代公爵様なのだろう。
彼は騎乗したままこちらへ歩いてくる。騎乗した者たちの先頭に先代様が到達すると、彼は馬から降りて背負っていた大鎌を手に持つ。そして大鎌の先で地面を叩きつけ、大きな音を出した。
それに合わせて騎乗していた者たち全員が馬から降り、先代様のように槍を構えて一度音を出す。ずいぶん大きな音なので、馬が怯えるかと思ったのだが、訓練されているのか暴れる様子もない。
先代様と先頭の二人を残して、残りの者は馬と共に厩舎へと向かっているようだ。先代様は私たちを一周見回した後、再度地面を鳴らした。
「この地に戻ってまいった! ガメス公爵領の守りは儂に任せるが良い!」
その言葉と同時に先代様が大鎌を天へと掲げる。それを合図に全員が大声を上げた。
私は彼らの様子を静かに見守る。きっとこれが公爵家特有のしきたりなのだろうと。マルセナから「静かに見守っていただければ問題ありません」と言われていたが、確かに私が何をする、という事もないだろう。
それが終わると、先代様が奥にいる私たちの元へと歩いてくる。目の前で立ち止まられたのを見て、私は頭を下げた。
「息子よ、ここは儂に任せてお前は帝都を頼む」
「承知した」
先代様は公爵様の肩をポンと叩いた後、こちらに身体を向けたようだ。
「顔を上げてくださいませ」
その言葉を聞き、私は姿勢を正す。私と視線が合った瞬間、先代様は信じられないものを見たかのように目を見開く。
そして目頭に力を入れた先代様は、言葉を紡いだ。
「遠くから遥々きていただき、ありがとうございました」
「こちらこそ、受け入れていただきありがとうございます」
私の礼を見つめていた先代様の瞳には、うっすら涙が溜まっていた。
無事に任務を終え、一旦休憩している私の元にマルセナがやってくる。どうやら先代公爵様が夕方頃に屋敷へとたどり着くらしい。私は二人に手伝ってもらい、身支度をする。
そして陽が地平線に沈む頃、私たちは玄関前へと整列する。道の両側には槍を持った衛兵たちが並び、私と公爵様は一番奥……道の真ん中に立った。
普段は身軽なシャツとズボンだけを着ている公爵様だったが、今日は正装に身を包んでいる。後でマルセナに確認したところ、着ている服は公爵家私軍の軍服らしい。
黒地に金の装飾が施されている事もあり、夕日の光を浴びて輝いているように見えた。軍服にマントを着こなした公爵様は、普段以上に凛々しい。私が隣でいいのかしら、そう思い慌てて自分の服装を確認する。すると頭上から声が聞こえてきた。
「今日の服装も似合っている」
思わず顔を上げると、公爵様はすでに前を向かれていた。
馬の集団が公爵家の前に現れた。聞き間違いか、と思って私を前を向いた時……彼の耳がほんのり赤くなっているのが見える。きっと私を元気付けてくれたのだろう……と心の中で感謝を述べていると、門が開いた。
全員に緊張感が走る。改めて姿勢を正すと、遠くから馬のひずめの音が聞こえてきた。バラバラに聞こえるその音は段々大きくなったと思えば、少しずつ小さくなっていく。そしてひづめの音が聞こえなくなったその時――
「先代公爵デイモン閣下のご入場です!」
その声と同時に、ひづめの音を響かせながら騎乗した人々が門内へと入ってくる。そして最後に入ってきたお方……他の者よりも大きく黒い馬に乗っている壮年の男性が、きっと先代公爵様なのだろう。
彼は騎乗したままこちらへ歩いてくる。騎乗した者たちの先頭に先代様が到達すると、彼は馬から降りて背負っていた大鎌を手に持つ。そして大鎌の先で地面を叩きつけ、大きな音を出した。
それに合わせて騎乗していた者たち全員が馬から降り、先代様のように槍を構えて一度音を出す。ずいぶん大きな音なので、馬が怯えるかと思ったのだが、訓練されているのか暴れる様子もない。
先代様と先頭の二人を残して、残りの者は馬と共に厩舎へと向かっているようだ。先代様は私たちを一周見回した後、再度地面を鳴らした。
「この地に戻ってまいった! ガメス公爵領の守りは儂に任せるが良い!」
その言葉と同時に先代様が大鎌を天へと掲げる。それを合図に全員が大声を上げた。
私は彼らの様子を静かに見守る。きっとこれが公爵家特有のしきたりなのだろうと。マルセナから「静かに見守っていただければ問題ありません」と言われていたが、確かに私が何をする、という事もないだろう。
それが終わると、先代様が奥にいる私たちの元へと歩いてくる。目の前で立ち止まられたのを見て、私は頭を下げた。
「息子よ、ここは儂に任せてお前は帝都を頼む」
「承知した」
先代様は公爵様の肩をポンと叩いた後、こちらに身体を向けたようだ。
「顔を上げてくださいませ」
その言葉を聞き、私は姿勢を正す。私と視線が合った瞬間、先代様は信じられないものを見たかのように目を見開く。
そして目頭に力を入れた先代様は、言葉を紡いだ。
「遠くから遥々きていただき、ありがとうございました」
「こちらこそ、受け入れていただきありがとうございます」
私の礼を見つめていた先代様の瞳には、うっすら涙が溜まっていた。


