【番外編更新】虐げられた私の身代わり婚約、そして見つけた幸せ

「後は、この魔法陣が使えるかどうかですねぇ〜」
「それに関しては私たちで確認しましょう。エスペランサ様、お部屋でゆっくりお休みください。顔色があまり良くありませんので……」

 シュゼットに言われて、首を傾げる。そういえば、少し頭が重いような気が……。
 私は椅子から立ちあがろうとして、目の前が暗くなった。めまいだ。慌てて見えない中、左手で椅子の背もたれを掴もうと動かすが、なかなか見つからず……その間に私はバランスを崩して倒れそうになった。

「危ない!」

 聞き覚えのある声が聞こえたと思ったら、私は何か温かいものに包まれる。めまいが治まり顔を上げると、ここには居ないはずの公爵様がいた。

「エスペランサ嬢、大丈夫か?!」
「あ、え、はい。立ち上がったらめまいがしただけです……」
「長時間座っていた状態で急に立ち上がりましたから、めまいを起こしたのかもしれません。公爵様、エスペランサ様は魔力も相当量消耗しておりますので、このまま部屋へとお連れするのがよろしいかと」

 シュゼットの言葉に公爵様は頷いた。それと同時に私の足が地面から離れたような気がした。

「えっ?」

 何が起きたのか分からない私。左を向くと、自分の身体が地面から浮いていた。そして右を向くと――。

「公爵様?」

 やけに公爵様が近くにいるわね、と疑問に思っていた私だったが、背中と膝下に手を回されて抱き上げられた事に気がつく。そして思わず声を上げていた。
 
「公爵様! 私、重いですから……歩きますわ!」
「これでも私は鍛えているからな。問題ない。むしろエスペランサ嬢を歩かせたら、心配で仕方がない。無茶をしすぎだ」
「エスペランサ様、大人しく旦那様に従った方がいいと思いますよ?」

 後ろから聞こえるリーナの言葉と、目の前で眉間に皺を寄せている……気のせいかもしれないけれど、泣きそうな公爵様の表情を見て、私は少しでも負担にならないよう縮こまる。

「公爵様! この度エスペランサ様のお陰で偽鏡の件は進展するでしょう! 吾輩たちも、歴史的大発見だからとエスペランサ様を止められなかった責任がございます! 彼女だけを責めることのないよう、お願いいたします!」

 そう告げて頭を下げた所長。それに倣って研究員全員が頭を下げる。その様子を見た公爵様は、ひとつため息をついてから話し始めた。

「今回の件は故意ではない事は理解している。次からは彼女だけでなく、研究員全員が無茶をしないよう気をつけるように。お前たちも一旦休んだらどうだ? 目の下に隈があるぞ」

 公爵様の言葉に、全員が顔を見合わせる。確かに各々うっすら目の下が暗いような……?

「偽鏡のために、寝る間も惜しんで研究をしていたみたいだな。今日は命令だ。以後の研究は禁止、食べて、寝て明日から再開すること」
「ええ〜! お嬢様の魔宝石の魔法陣の起動実験は……?」
「明日からだ」

 セヴァルはこの世の終わりのような表情で、公爵様を見ていた。けれども、彼はセヴァルの様子を機にすることなく、首を左右に振る。
 シュゼットはそんなセヴァルの首根っこを押さえて一礼した。

「承知いたしました」
「研究所にヘンリーを向かわせる。何かあればヘンリーに伝えるように」

 ヘンリーの名前を聞いて、研究員全員の顔が青褪める。あのセヴァルまでも、口角が引きつっていた。これなら皆も休むだろう。
 公爵様は私を抱えたまま踵を返す。絶望の空気が満ちている部屋を後にした。