【番外編更新】虐げられた私の身代わり婚約、そして見つけた幸せ

 その後ヘンリーの働きによって私たちの昼食後には、書類の様式の草案が決まったようだ。彼が持ってきた書類の書式案は複数あった。文官たちの要望で、そのような形になったとの事。これで書類が書きやすくなりそうだ、と文官たちも大喜びだったらしい。
 私もその書面を見せてもらう。同様の形式の書類を何枚か重ねてパラパラとめくってみる。確かにどこに何を記載すればいいのかが分かりやすいので、書く方も見る方も扱いやすくなったのではないか、と思う。

 何気ない一言がここまで役に立つとは……私も嬉しく思う。書類を公爵様へとお返しし、私はゆっくりと紅茶をいただく。その間にもヘンリーと公爵様の二人のやり取りは続いた。

「後はこれを何枚も作成すれば、よろしいでしょうか?」
「ああ。明日の書類からこれで提出するように各部署には話をつけて欲しい。もし書面に関する要望があれば、紙に書いて提出するようにも伝えてくれ」
「畏まりました」

 ヘンリーが頭を下げて食堂を出て行く。それを見送った公爵様は、私を見据えた。

「食事中すまなかったな。慌しかっただろう?」
「いえ、気にしておりませんわ。このような事は早ければ早いほどよろしいですから」

 食事が終わった私たちは、話しながら次の場所へ向かう。私は研究所、公爵様は執務室だ。
 公爵様の話によれば、元々文官の間からも「人によって書類の書き方が違って見辛い」という言葉は上がっていたらしい。けれども、その後の具体的な案は上がっていなかったという話だった。今回の件が渡りに船だったと言う。

「分かりやすく書く位置を固定してしまうのはいい案だ。特に文官から評判が良かったのは、日付だな。順にまとめやすいと評判だった。書類をまとめると、日付の部分が()()()()()()()から、その部分を見るだけで直すことができて良いとの事だった」
「一箇所に重なる……」
「そうだ。今までは皆が自分の形式で記入していたからな。探すのが大変だった」

 楽になったと喜ぶ公爵様を尻目に、私は彼の言葉を頭の中で反芻していた。一箇所に重ねて押しつぶす……執務室で公爵様が書類の束を上から手で押した場面が、ふと頭に浮かんだ。
 そこで私はハッと気が付く。この方法なら……魔宝石に四つ目の魔法陣を込められるかもしれない、と。

 急に黙ってしまった私が心配だったのか、公爵様は顔色を窺うようにのぞき込んでいた。そんな彼と私の視線が交わる。私は思わず彼の両手を握りしめた。
 
「公爵様、ありがとうございます! お陰様で、魔法陣の件で良い案が浮かびました!」

 彼は私の言葉で何となく察してくれたようだったが、私に手を掴まれて狼狽えている。けれども、私はそれ以上に興奮していた。すぐに手を離してから、公爵様へと頭を下げる。
 そして私は研究室へと向かう廊下で、思いついた案を詰めながら歩く。その足取りは以前より軽いものだ。

 だからだろうか、私はすぐに背を向けて歩き出したので気づかなかった。
 呆然とする公爵様に、それを見ていたヘンリー。彼は顔が真っ赤になっている公爵様を見た後、「似たもの同士ですね」と小さく呟いていた。