【番外編更新】虐げられた私の身代わり婚約、そして見つけた幸せ

「……怒涛の一日だったわ……」

 セヴァルの講義を中断し、夕食後私は部屋で身体を揉みほぐされていた。ユーイン殿下の件もあったけれど、それ以上にセヴァルの講義が非常に濃いものだったのだ。シュゼットが選んだ者たちは、私が初心者である事を踏まえて魔術を教えてくれていた。
 けれども、セヴァルに関してはそんな事など関係ないと言わんばかりに、話を進めていくのだ。時には知らない用語が出てくるため、理解ができない単語がある時にはセヴァルに必ず確認するのだが、彼は非常に分かりやすく教えてくれる。
 それがあったから今回の話は理解できたけれど……もし私の質問を無視して話されていたら、理解不能だっただろう。

 今日の話をまとめると、ひとつの魔宝石に何個の魔術を込められるかという議題だった。お母様の形見であったあの魔宝石を思い出す。あの魔宝石には最低五もの魔法陣が組み込まれていたらしい。

「今回の偽鏡もどう作成するか分かりませんけどねぇ。魔法陣を複数個描く必要があるかと思うんですよ〜。私でも三個が限界ですからねぇ……確か王宮魔術研究員も最大で三個が限界だったと思いますよぉ?」
 
 セヴァル曰く、私の魔力量とお母様とよく似た美しい(らしい)魔法陣。今回の儀鏡にはそれが必要になる可能性があると話を聞いて考えていたそうだ。だから、今のうちに私を鍛える必要がある、と。
 勿論セヴァルも最大記録更新を目指しているらしいのだけれど、どうしても魔力が足りないのだとか。

「本当にすぐ魔力が回復すれば良いんですけどねぇ。病気を治す薬のように魔力が回復する薬なんてあれば良いんですけど、まだ作れていないんですよねぇ。そうしたらそれを飲んで永遠と実験できるじゃないですか〜」

 ぶつくさと呟くセヴァル。ま、まぁ……彼ならいつか作れそうだけどね。セヴァル自身も今研究の途中だ、と言っていたし。
 でも本当に、そんな薬があったら魔道具作成の幅が広がるとは思う。魔道具や魔宝石に魔法陣を込める際に時間を置いてしまうと、魔宝石に込められた魔法陣の魔力が宝石に合わせて変質してしまうのだとか。
 魔力が変化すると、込められた魔法陣が固定されてしまい、いつでも発動できる状態になっているらしい。ただそこに新たな魔法陣を加えようとしても、弾かれてしまうと彼は言っていた。
 実験と称して、授業の最初に作成した魔道具へと再度魔法陣を込めてみたのだけれど、説明の通り魔力は弾かれたもの。

 だから魔力量が多い人は重宝されるのよ。
 実際説明していたセヴァルも、満面の笑みで私に話していたわ。

「ですから、お嬢様には最低でも六個は魔法陣を込められるようになっていただいてぇ」

 今日やっと二つ目の魔法陣を込める事ができたのに、これを後六個だなんて……本当にできるかしら。そんな事を思いながら、思わず遠い目をしていた私にセヴァルは嬉々として答えたわ。
 
「魔術の学習を始めて三週間でふたつの魔法陣を込められるのは、素晴らしい速度です! この調子で明日三つ目を込められるようにしましょうねぇ!」
「……そうね、頑張るわ」

 セヴァルとのやり取りを思い出してため息をつく。マルセナが声をかけてくれたので、「大丈夫」と返した。
 確かに先の見えない話に疲れてはいたけれど、王国の時とは気持ちの持ちようが違ったわ。だって、ある程度目標が見えているもの。王国の時はいつ終わるかわからない仕事の量、これが永遠と増えていくだけだったから。死ぬまでこのままかと思って、最後は何も感じていなかったわ。

 でも、今は違う。
 セヴァルの講師と聞いて公爵様も心配な表情はしていたけれど、私が二個目の魔法陣を込める事ができたと聞いて驚きながらも期待をしてくれていた。私はここにいても良いんだ、って実感ができたの。
 
 私を受け入れてくれた公爵家の皆さん……公爵様に恩返しができるよう、私は精一杯できる事をするわ。