「私の母の話、ですか?」

 私は思わず首を傾げた。今までの話を総合すると、今回ユーイン殿下は公爵家にお忍びで来ている事になる。その理由が私のお母様である事にどのような意味があるのだろうか。
 まさか以前のルノーのように、お母様の昔話を伝えに来たわけではあるまいし……。

 私の疑問がユーイン殿下に伝わったのだろう。私に向けてひとつ頷いた。
 そして一旦私から視線を外した殿下は、隣の公爵様に向けて声をかける。

「レオネル、防音の準備は?」
「終了しております。斥候なども見当たりませんでした」
「流石だな」
 
 嬉しそうにユーイン殿下は公爵様へと声をかける。その二人の言動で信頼関係が見てとれた。口角を上げていた殿下は、沈痛な面持ちで私へと顔を向けている。

「その前に、君たちには我が国の極秘事項を伝えなければならない。この件は口外禁止だ。分かったか?」

 公爵様も知らない帝国の秘匿……? 無意識に私は隣にいる彼の顔をチラリと見た。すると公爵様も丁度私へと顔を向けていたらしく、視線が交わった。最初は驚きからか、口が半開きになっていた公爵様だったけれど、今は力強い表情で私を見ている。まるで鼓舞してくれているようだ。
 私は軽く頷いた後、ユーイン殿下へ目を据える。決意を感じ取ってくださったのか、殿下は話を続けた。