その間に彼らの戯れ(たわむ)が終わったのか、ユーイン殿下の表情が真剣なものとなっていた。私も再度気を引き締める。

「今日は前触れもなく訪れてすまなかった。内密に話し合いたい事があってな。転移陣を使用させてもらった」
 
 公爵様が息を呑む。
 ユーイン殿下の話によれば帝都から公爵家まで、どんなに早くても二週間以上は掛かるのだそう。だが、この領土はデヴァイン王国と国境が隣接している場所。重要拠点なのだ。
 そのため以前の戦争の際、許可された者だけが使用できる転移陣が施されたのだという。
 ここに転移陣がある事を知るのは、公爵家でも上部の者たちだけらしい。

「あの、そんな重要な件を私が知ってもよろしいのでしょうか?」

 ユーイン殿下は包み隠さず私に教えてくださったのだが、隣で聞いていた公爵様の雰囲気に焦りが混じっていた気がする。
 心配する私をよそに、殿下の反応は淡白なものだった。

「ああ、先程告げた通りだ。転移陣に登録した者しか通る事ができないからな。それに何処にあるかも分からないだろう? そもそもエスペランサ嬢はレオネルの婚約者なのだから、先に知るか、後で知るかになるだけだ。それよりも……エスペランサ嬢に用がある。用事とは、バレンティナ魔導皇女殿下……いや、あなたの母君についての話だ」