早急に支度を終えた私が、マルセナの案内で応接室へと向かうと、既に公爵様と向かい合って座っていた男性がいた。金の刺繍がふんだんに施された黒地の服を身にまとう男性は、どう見ても高貴なお方にしか見えない。多分この方がユーイン殿下なのだろう。
マルセナの指示で公爵様の隣へ座る。すると殿下は私の姿が目に入ったらしく、少しだけ目を瞬かせていた。もしかしたら公爵様は私がエスペランサだという事を知らないのかしら? と思っていたのだが――。
「いやぁ、急に来て申し訳ないねぇ! 君がエスペランサ嬢かな? レオネルから報告は聞いているよ!」
公爵様からきちんと報告は受けているらしい。安堵した私は礼を執る。
「王国より参りました、エスペランサ・ホイートストンでございます」
「私はこの国の第二皇子で、ユーイン・ソラル=ローランド・セクンドゥスというよ! よろしく! それよりも、あっちの禁呪で『ブレンダ・ホイートストン』を名乗るよう強制されていたんだって? 聞いた時は驚いたよ!」
あっけらかんと笑いながら話す殿下に、私は気圧される。軽やかな振る舞いをされてはいるけれど、彼の佇まいは気品に溢れていた。
「まさか君がその禁呪を木彫りのクマへと移す事ができたから良かったものの……それができていなかったら、君はどうなっていたか……」
そう告げた殿下は私へ顔を向けた。まるで私の事を試しているような……そんな厳しい視線を感じた。
私は彼へとニッコリ微笑む。すると私の行動に驚いたのか、最初は目を見開いていたが……殿下は降参と言わんばかりに肩をすくめた。
目線でのやり取りに公爵様が気が付いたかどうかは分からない。けれど次に反論したのは、彼だった。
「お言葉ですが殿下、私は最初から彼女がブレンダ嬢ではない事に気づいていましたので、エスペランサ嬢の不安を煽るような事はしないでいただきたい。それに、もしこちらに来ていたのが本当にブレンダ嬢であったとしても、私は丁重におもてなしをします」
眉間に深い皺を刻んだレオネルに、ユーイン殿下は慌てて自分の言葉を否定した。
「いやいや、冗談だって!」
「殿下、冗談は時と場合を選んでください」
「ごめんって〜」
思った以上に気安い関係なのね、と私は思う。何度か瞬きをしながら二人を見ていると、私の様子に気づいたユーイン殿下が教えてくれた。
「レオネルは昔軍部で世話をしたんだ。心許した仲でね」
そういえば、ルノーが言っていたわね。公爵様も帝都で騎士として働いていたと。ユーイン殿下は第二皇子として軍部をまとめられている方なのかもしれない。そう一人で納得していると、渋い表情の公爵様が呟いた。
「いえ、殿下のお世話をしたの間違えでしょう」
「え〜? そう? レオネルはいつも厳しいなぁ〜」
仕方なさそうに首をすくめたユーイン殿下は、足をぶらぶらさせる。本当に公爵様と打ち解けているのだろう。まるで駄々っ子のように口を尖らせているけれど、その行動もどこか品がある。
ふと皇子繋がりだからだろうか、ジオドリックを思い出した。彼の行動はユーイン殿下と比べるのも……ユーイン殿下に失礼だわ。王子と皇子でこんなにも違うのねぇ……と他人事のように考えていた。
マルセナの指示で公爵様の隣へ座る。すると殿下は私の姿が目に入ったらしく、少しだけ目を瞬かせていた。もしかしたら公爵様は私がエスペランサだという事を知らないのかしら? と思っていたのだが――。
「いやぁ、急に来て申し訳ないねぇ! 君がエスペランサ嬢かな? レオネルから報告は聞いているよ!」
公爵様からきちんと報告は受けているらしい。安堵した私は礼を執る。
「王国より参りました、エスペランサ・ホイートストンでございます」
「私はこの国の第二皇子で、ユーイン・ソラル=ローランド・セクンドゥスというよ! よろしく! それよりも、あっちの禁呪で『ブレンダ・ホイートストン』を名乗るよう強制されていたんだって? 聞いた時は驚いたよ!」
あっけらかんと笑いながら話す殿下に、私は気圧される。軽やかな振る舞いをされてはいるけれど、彼の佇まいは気品に溢れていた。
「まさか君がその禁呪を木彫りのクマへと移す事ができたから良かったものの……それができていなかったら、君はどうなっていたか……」
そう告げた殿下は私へ顔を向けた。まるで私の事を試しているような……そんな厳しい視線を感じた。
私は彼へとニッコリ微笑む。すると私の行動に驚いたのか、最初は目を見開いていたが……殿下は降参と言わんばかりに肩をすくめた。
目線でのやり取りに公爵様が気が付いたかどうかは分からない。けれど次に反論したのは、彼だった。
「お言葉ですが殿下、私は最初から彼女がブレンダ嬢ではない事に気づいていましたので、エスペランサ嬢の不安を煽るような事はしないでいただきたい。それに、もしこちらに来ていたのが本当にブレンダ嬢であったとしても、私は丁重におもてなしをします」
眉間に深い皺を刻んだレオネルに、ユーイン殿下は慌てて自分の言葉を否定した。
「いやいや、冗談だって!」
「殿下、冗談は時と場合を選んでください」
「ごめんって〜」
思った以上に気安い関係なのね、と私は思う。何度か瞬きをしながら二人を見ていると、私の様子に気づいたユーイン殿下が教えてくれた。
「レオネルは昔軍部で世話をしたんだ。心許した仲でね」
そういえば、ルノーが言っていたわね。公爵様も帝都で騎士として働いていたと。ユーイン殿下は第二皇子として軍部をまとめられている方なのかもしれない。そう一人で納得していると、渋い表情の公爵様が呟いた。
「いえ、殿下のお世話をしたの間違えでしょう」
「え〜? そう? レオネルはいつも厳しいなぁ〜」
仕方なさそうに首をすくめたユーイン殿下は、足をぶらぶらさせる。本当に公爵様と打ち解けているのだろう。まるで駄々っ子のように口を尖らせているけれど、その行動もどこか品がある。
ふと皇子繋がりだからだろうか、ジオドリックを思い出した。彼の行動はユーイン殿下と比べるのも……ユーイン殿下に失礼だわ。王子と皇子でこんなにも違うのねぇ……と他人事のように考えていた。

