【完結】虐げられた私の身代わり婚約、そして見つけた幸せ

 王国の言い伝えによれば、デヴァイン大帝国の最後の皇帝の没後、当時皇太子だった第一皇子と第二皇子が皇帝の座を狙って争い、最終的に大帝国全土を巻き込む戦争へと発展。数十年の時を経て、第一皇子が第二皇子の首を取り、終戦したという。
 その後第一皇子は彼の味方に付いた貴族たちと共に、デヴァイン大帝国に変わるデヴァイン王国を作り上げ、今に至っているそうだ。その誇りと歴史が周辺国を蔑む要因となり、膨大な時を経てその思想が凝り固まってしまったため、貴族たちは他国の者たちを「汚れた血」と見下している。

「そもそも……あの国は帝国を『野蛮だ』と言っているけれども、野蛮なのはどっちなのかしら、ってここにきて思うの。それにお得意の魔法で帝国との戦争に勝てたかと言ったら……平和条約を締結している時点でね……」
 
 ため息をつきつつ告げる私に、シュゼットは「仰る通りです」と言う。

「戦争は……確かデヴァイン王国の先先代国王が始めたのよね」
「仰る通りです。始まりは王国から届いた一通の手紙でした」

 私もその話は知っている。
 当時、デヴァイン王国と帝国の間にはひとつの小さな国があった。けれども、その国は王国から関税を多くく設定したり、王国への入国を制限したりとやりたい放題だったらしい。その王国は最終的に帝国へと庇護を求め、属国となったのだけれど……それが気に食わなかったデヴァイン王国は難癖をつけて帝国へ攻め入ったとか。

 そして先代国王陛下の代。王国で飢饉が発生したのをきっかけに、戦争どころでは無くなった王国が停戦協定に応じた、と言う話なのだ。その協定で母がホイートストン公爵家に嫁いでいる。
 
「戦争の最前線で活動されていた前公爵様がよく仰っておりました。『王国は生温い』と。魔法に頼り過ぎていたために、兵士の練度は高くなかったようですね」
「シュゼットの言う通り、あの国は本当に魔法至上主義だったから……魔法を使えない兵士は魔導士からも下に見られていたわ。あの国の序列は魔力量と強い魔法が使えるかどうか、よ」

 今でもそう。あの国は敗北を認める事ができていない。
 大帝国で使用されていた魔法が一番だと思っている。伝統を大切にする、と言えば聞こえは良いけれど、私からすれば悪い意味で過去に留まっているようにしか見えない。
 
 だから他国の血が入っていた上に魔力なしのエスペランサは、異物として扱われたし、グレゴリー(現国王)に賛同する貴族たちが、私を王国から追い出そうと尽力していたのだろう。
 そしてこの度、先代国王陛下の重鎮たちが政界を引退し、グレゴリーの意志に同意する者たちが残った。それもあってここで私を追放する事にしたのだろう。

 ふと謁見の間の事を思い出し、眉間に皺が寄ってしまった。そう思っていた私だったけれど、シュゼットから見た私は、どうやら血の気が引いたような表情になっていたらしい。
 
「エスペランサ様、ご気分が優れないのでは?」

 シュゼットの言葉を聞いて、私は近くにある鏡で顔を確認した。確かに、映った自分の顔は思っていた以上に血の気が失せていた。

「初日から申し訳ないのだけれど、今日は休んでも良いかしら?」
「ええ、明日の授業につきましては休まれる場合であればご連絡いただけると助かります」
「大丈夫だとは思うけれど、何かあったらリーナかマルセナに伝えてもらうようにするわね」

 心配そうな表情で部屋を出ていくシュゼットの背を見送った私は、目の前に置いてあった紅茶を口に含んだ。