【番外編更新】虐げられた私の身代わり婚約、そして見つけた幸せ

「エスペランサ様、うちのセヴァルが大変申し訳ございませんでした」

 その女性は右手でセヴァルの襟元を掴んだまま頭を下げる。そして力づくでセヴァルの頭を動かし、まるでひれ伏すようにお辞儀をさせた。

「所長〜、痛いですってばぁ……」
「お前のその性格はどうにかならないのかしら? 少しでいいから慎みを持ちなさい」
「いやぁ、これ以上は無理ですねぇ〜」

 はあ、と大きなため息をついた女性は懐から一枚の紙を取り出した。そして何かを呟くと、その紙が光り輝いて――次の瞬間、セヴァルが何かでぐるぐる巻きとなって床に転がっている。

「そこで頭を冷やしていなさい」

 そんな冷たい視線にセヴァルは光悦な表情を見せる。どうやら魔法で束縛されているのが嬉しいらしい。軸がぶれないわね、と思いながらその様子を見ていると、セヴァルの身体を巻いている紐を持った女性が、先程よりも深々と礼をした。

「大変お見苦しいところをお見せして、申し訳ございません。私、この研究所の所長を任されております、シュゼットと申します」

 顎下あたりで切り揃えた髪。男性っぽいけれど、声は高い。公爵様から教えていただいた話だが、彼女は元々騎士の家系出身で、兄弟に囲まれて過ごしたがためにこの口調なのだと言う。
 研究員も何故か彼女の声には従うらしい。そのため、いつの間にか研究員をまとめるのは彼女しかいない、と言われて若干二十歳で所長の立場になったのだとか。

「私、エスペランサと申します。以後、お見知りおきください」
「ご丁寧にありがとうございます」

 微笑むシュゼットの笑みが可愛らしくて、彼女がこの研究所の所長だと誰が思うだろうか。ただ、セヴァルが魔法を解こうと床で(うごめ)いている様子を見ると、魔法の実力もかなりのモノに見える。
 まだまだ魔法を解けそうにないセヴァルを気にかける事なく、公爵様はシュゼットへと話しかけた。

「シュゼット、魔力測定器はすぐに準備できるものか?」
「そうですね。事前に言っていただければ用意しますが……エスペランサ様の魔力を計測する予定なのでしょうか?」

 シュゼットは私へと顔を向ける。

「ええ、お願いしようかと思っております」
「でしたら事前に言っていただければ、お待たせする事なく計測に――」
「いえ、今です! 今計測しましょう! 準備をしてきますねぇ!」

 いつの間にやらシュゼットの魔術から抜け出したらしいセヴァル。私たちは呆然と彼の背中を見届ける。見えなくなったところで、シュゼットがひとつため息をついた。

「エスペランサ様、申し訳ございません……あの者は魔法や魔術の事になると前しか見えなくなりますので、あの状態は私でも止める事ができません。もしこの後に予定がおありでしたら、今この場を離れる事をお勧めいたします。まあ、あの様子でしたら……後五分もかからないうちに準備は終わると思いますが」

 どうするかをこちらで決めてくれ、という事だろう。私自身の時間は問題ないのだけれど、公爵様はどうされるのだろうか。そう思い彼を一瞥すると、視線が交わった。
 ちょうど良い。ここで私が魔力を計測する意思を伝えておこう。
 
「私はこのまま計測させていただこうと思うのですが、公爵様はどうなされますか?」
「なら私も見学させていただこう」
 
 こうして全員が私の魔力測定を見学する事に決まった。測定は王国のソレと一緒なのだろうか? そう思ってシュゼットへと声をかけようとしたところ、遠くから「準備終わりましたぁ〜」というセヴァルの声が聞こえた。