【完結】虐げられた私の身代わり婚約、そして見つけた幸せ

 ルノーに対するマルセナの視線は非常に冷たいモノだった。
 そんな視線を軍の頂点に投げても良いのかしら……と思っていると、リーナが私の耳元でささやいてくる。

 「ルノー様はマルセナさんのお父様なのです。ちなみにマルセナさんはお母様似です!」

 マルセナの……父? 改めてルノーとマルセナを確認する。
 リーナの言う通り、マルセナは母親似なのだろう。よく見ると、目元がルノーとそっくりだとは思うけれど……。
 森で会ったら熊と間違えるのではないか、と思うほどの体躯を持ち、豪快に喋るルノーが……マルセナの言葉に背を丸めてしょんぼりとしている。何で例えるといいだろうか……ああ、イタズラが発覚した子どもを怒っている母、のような構図ね。

 話を聞いていると、感極まるとルノーは相手に触れたり近づき過ぎたりする節があり、いつもマルセナや彼女の母がルノーに説教をしているのだそう。「この家は女性が強いんですよぉ〜普段の光景です」とリーナは事もなさげに言っていた。
 最初は大きく頼もしい背中だったルノーだが、今は頼りなさげに肩を落としている。一通り怒ったらしいマルセナは、こちらを向いた。

「お見苦しいところをお見せして、大変申し訳ございませんでした。後で言って聞かせますので」

 私に頭を下げたマルセナを見て、思わず公爵様を見る。彼も慣れた事なのか、苦笑いをしていた。まずはマルセナの頭を上げさせないといけない。
 
「マルセナ、私は気にしていないわ。だから頭を上げてほしいの」

 そう言うと、マルセナは私を見据えた。にっこりと微笑めばマルセナも納得したようだ。私が何度もマルセナから感謝を言われている間に、公爵様がルノーの肩を軽く叩いた。

「ルノーも気をつけるんだな」
「……面目ない」

 意気消沈しているルノーを不憫に思った私は、彼に声を掛けた。

「また訓練を見にきても良いかしら?」
「勿論! お待ちしておりま――痛て!」

 勢いよく体を乗り出したからか、再度マルセナに頭を叩かれるルノー。

「本日は母にもこの件を伝えてから、全力で絞りますので……」

 その光景を見て、マルセナは怒らせてはいけないわね……と密かに思った。