【完結】虐げられた私の身代わり婚約、そして見つけた幸せ

 公爵様はルノーと別れ、こちらへと歩いてきた。

「エスペランサ嬢、大丈夫だったか?」
「はい。こちらは問題ありませんが……」

 開口一番に言われた言葉を聞いて、私は目を丸くした。心配される事などひとつもなかったからだ。首を傾げていると、公爵様がそう訊ねた理由を教えてくれる。
 
「ああ、いや。少々顔色が悪かったように見えたんだが……エスペランサ嬢はあまりこのような場所に来た事がないだろう? 気分を悪くしているのではないかと思ってな」

 そういえば、血を見ただけで倒れてしまった人もいたな、と思い出した。
 私が王宮にほぼ監禁されていた頃、ジオドリック(王国王太子)が私を怖がらせようと、倒した血だらけの魔物を見せに来た事がある。確かに私は驚いた……けどそれだけだ。
 
 その後私と別れたその後に別の令嬢と出会ってしまったのか、その方が魔物を見て倒れてしまった事で苦情が来たらしく、翌日私に当たってきた記憶を思い出す。
 
「お気遣いありがとうございます。ですが意外と私、図太いのですよ。公爵様の戦いをしかと拝見させていただきました」
「そうか、それならいいのだが……手を組んで見ていたようだったからな。もしかしたら、苦手なのかと思ってな」
「その事でしたか。恐れ多くはありますが、お二人が怪我をしないようにと祈らせていただいたのです」

 その言葉に公爵様は虚を突かれたような表情で私を見ている。私は大丈夫である事を伝えるためにも、にっこりと微笑むと、彼はふっと口角を上げて笑った。

「そうだったか。君が祈ってくれたお陰で、私はルノーに勝つ事ができた。感謝する」

 初めて見る彼の笑顔に、私は予想外の一撃を与えられた事で頬が火照(ほて)る。公爵様のまっすぐな瞳が恥ずかしくて少し俯いていた私だったが、隣にいたリーナが微笑んでいると気がつき我に返る。
 
 そうだ、私は許可をもらいに来たのだった。
 改めて公爵様へと視線を送ると、不思議そうな表情でこちらを見ている彼がいる。
 
「公爵様、おひとつ許可をいただきたいのですが」

 そう告げて、私はお願いをした。