私は『穢れた血』と呼ばれている理由は、隣国の血が入っているからだ。
 私の母は、隣国の皇女だった。

 この国は何よりも血統を重んじる。だからこのような視線は家族からも送られているため、日常茶飯事だった。
 幸い私の()()髪色は公爵の色を引き継いだ金色。金色は王家の血を引いている証拠であるため、これくらいの嫌味程度で済んでいるのかもしれない。
 母の髪色は、闇夜のように深く美しい黒髪だった。この国には黒髪がいない。もし黒髪出会ったら、今以上の憎悪に晒されていただろう。今までの鬱憤を晴らすかのように好き勝手喋っていた貴族たちだったが、ある人物が登場した事で全員が口を閉じた。

 壇上の王座へと歩いてくる男――デヴァイン王国現国王陛下である、グレゴリー・デイヴィス国王陛下。

 彼は私の目の前で一度も笑った事がない。血統主義の彼にとって、私の存在は不快そのものなのだろう。

 だが、今や溢れんばかりの笑みで王座に座っている。それも、為政者としての笑みではなく、心の底から笑っているように見える。自分に関する何かがあるのだろう……そんな確信めいた不安が、静かに胸をざわつかせた。

 「皆の者、今日は喜ばしい報告がある」

 陛下の声が謁見の間に響き渡る。その声は王としての威厳のある普段の声色とは違い、そこには確かな喜びの色が感じられた。
 その声に釣られてなのか、周囲の貴族たちからも歓喜のこもった声があちらこちらから上がった。

「以前より頭を悩ませていた問題があったのは皆知っているだろうが、今回その件がホイートストン公爵家の協力により、解決するに至った。その件とはジオドリックの婚約者についてだ」

 陛下は周囲をゆっくりと見渡しながら……まるで一人一人に目を合わせながら話しているのではないかと勘違いするほど、ゆったりと話す。
 しかし、頭を下げている私だけは彼と目が合うことはない。
 
 ……ジオドリック。陛下の息子であり、この国の王太子。そして私の婚約者である。

 陛下の言葉を聞いた後、一斉に私へと視線が集まったように思える。それは興味と悪意の入り混じったものだ。私の反応を確かめようと顔を覗き込もうとする者もいれば、わざとらしく「おお! おめでたい」と声をあげるものすら現れた。

 そんな品のない行動ですら、陛下は咎めない。むしろそれを許そうと言わんばかりに、彼も意気揚々に話し始めた。
 
「この度、現婚約者であるエスペランサ・ホイートストンと王太子ジオドリックの婚約を白紙撤回し、新たにホイートストン家の次女であるブレンダ・ホイートストンと婚約する結びとなった」

 その瞬間、先程とは比較にならないほどの大喝采が響き渡る。全員がこの時を待ち望んでいたのだろう。

「やっとか!」
「これで穢れた血が王家に入る事は無くなったのだな!喜ばしい事だ!」

 嘲笑と侮蔑の声が飛び交い、広間は狂喜に包まれる。
 永遠と続くのではないか、と思われる時間だったが、それにも終わりがやってきた。