その後、私が疲れているだろう、という事でセヴァルは退出を命じられた。よほど私の魔力を確認したいのだろう……彼は何度も「お嬢様」と嘆き叫ぶような声を上げている。
 ヘンリーはそんなセヴァルを引きずって部屋の外へと追い出そうとしていた。ヘンリーは執事でありながらも鍛えているようで、セヴァルを襟元を掴み引っ張っていく。
 けれども、セヴァルも負けてはいられない。扉にしがみついて離れないのだ。

「こんなに素敵な実験……いや、魔力量を持つ方がいるのに! なんで測定しないんですかぁ!」

 私が魔導皇女の娘と知った上での、このゴネっぷり。それだけではなく、私の事を実験対象としか見ていない徹底ぶり。――ええ、研究者としては立派ね、と半ば呆れながらも私は感心していた。
 こんな彼の手綱を握っているなんて、公爵様は凄いのね……と思って私は公爵様を一瞥するけれど、当の彼は手を当てて眉間を揉んでいた。どうやら彼も持て余しているようだ。
 いつまで経っても終わらない喜劇。このままでは、セヴァルは永久に縋り付いているだけだろうと私は判断した。
 
「セヴァル、もし良ければこれを貸し出しましょう」

 彼に近づいた私は、お母様の形見の首飾りや割れた宝石をセヴァルの前に差し出した。彼は泣き叫ぶのをやめ、私とそれを交互に見つめている。

「宝石は割れてしまいましたが……それでも何かしら研究には役に立つのではありませんか?」

 そう告げた私に、セヴァルは満面の笑みを返した。

「よろしいのですか?! ああー、ありがとうございますぅ! こちらも研究させていただきたかったのですよぉ〜!」

 先程の姿とは一変、小躍りしそうなほど飛び上がる彼に頭を抱える公爵様。そしてその姿を鋭い視線で睨みつけているヘンリー。
 公爵様はこちらに向いたかと思うと、私に小声で貸し出す許可の確認を取ってきた。

「良いのだろうか、本当に」
「ええ、研究の役に立つのであれば」

 そう話して公爵様に微笑めば、彼に頭を下げて感謝される。そして公爵様はセヴァルに言い聞かせるよう、告げた。
 
「セヴァル、丁重に扱うように」
「勿論でございますともっ! それでは、失礼しますぅ〜!」

 先程とは打って変わって飛び跳ねながら部屋を出て行ったセヴァルを見送った公爵様。彼の背が扉に隠れた瞬間、大きなため息をついていた。