セヴァルの言葉を聞いて、私は少しだけ驚いた。王国は魔力至上主義なので、魔力の多い諜報員は潜入しやすい……いや、簡単に潜入はできると思う。しかしセヴァルが懐から出した魔法書は、王宮にしか置かれていないはずの書。帝国はどこまで王国の内部に手が延びているのか、少し気になった。
 まあ、私はもう既に帝国の者なので、王国の情報がどれだけ抜かれていようが気にならないけれど。

 色々考えていると、彼が私に声を掛けてくる。

「お嬢様、こちらを手に取ってもよろしいでしょうか?」

 割れた宝石を指差して告げるセヴァル。その楽しげな表情を見て、私は思わず「どうぞ」と告げていた。彼は宝石を手に乗せ、嬉々として観察し始めた。そして次に禁呪が移ったクマの木彫りへをまじまじと見る。
 
「そうですねぇ……見る限りですと『姿変えの魔術』『顕呪(けんじゅ)の魔術』が掛けられていた痕跡がありますねぇ……ふむ、かすかに『封魔の魔術』の痕跡も……素晴らしい!」

 いきなり叫び出したセヴァルに、私や公爵様は目をしばたたかせた。
 割れた宝石を光に透かして見ている彼の目は、まるで子どものようにキラキラと輝いている。公爵様が「珍しいな」と呟いている所を見ると、宝石に関してはセヴァルの気を相当惹くものだったのだろう。

 彼はしばらく頬を染めて、幸せそうに宝石を見ていた。
 しばらくして満足したのか、セヴァルは宝石をテーブルの上に置く。

「良い物を見せていただき、ありがとうございました! こんなに多くの魔術を掛けられるお方は、そうそうおりませんねぇ。かつて『魔導皇女』と呼ばれたバレンティナ殿下でしたら、おちゃのこさいさい、でしょうねぇ」
「魔導、皇女……」

 母の、知らない一面を見れたような気がした。