エンドロール

 昼休み、帰ることになった。

 午前中、やはり少し体調が悪くなって2回ほど保健室に行った。

 最近、息切れが酷い。
 階段を2階分くらい上がるとすぐに息が切れてしまう。

 「椎名さん、お母さん、迎えに来るって」

 保健室の椅子で座っていると、養護の先生がそう言ってくれた。

 『わかりました』

 紙に書いて見せた。

 「大丈夫 ?
 まだ息切れする ?」

 先生が優しく聞いてくれて、曖昧に頷いた。

 『だいぶ楽にはなりました』

 「そう、よかった」

 『外で待っててもいいですか ?』

 「いいけど、まだ肌寒いよ ?」

 『大丈夫です
 外にいた方が呼吸しやすいので』

 「わかった。
 じゃあ、お大事にね」

 頭を下げて保健室を出た。

 僕が中学生の時、会話に困っていたら担任が提案してくれた筆談。
 今では、普通の会話のようにできるようになった。

 最初は、声を出そうと頑張っていたけど、詰まっているところをクラスメイトにからかわれて、余計に出なくなってしまった。
 それどころか学校に行くのも怖くなってしまった。

 だから、もう声は出さない。
 出せないものは出せないんだから、諦めるとかじゃなくて無理にもがくのはやめた。

 いつかはきっと出るはずだ。


 「あ」

 生徒玄関に向かうために、渡り廊下を歩いていた時。
 あの女の子と出会った。

 社会で苦労しないタイプの子。

 でも、今日はなんかおかしい。
 目が赤い。
 もしかして、泣いた ?

 「帰るの ?」

 いきなりそう聞かれた。

 名前も知らない、年齢さえも知れない、同学年かも分からない女子に話しかけられた。
 同世代の子に話しかけられたのは何年ぶりだろう。

 呆気にとられていたけれど、女の子が不思議そうな顔をするのを見て、慌てて首を縦に振った。

 「そうなんだ。
 風邪かなんか ?」

 初対面の男子にこんなにズカズカ聞くか ?
 いや、もしかしたらどこかで会ったことあるのかもしれない。
 実は、中学で同じだったとか ?

 風邪じゃない。

 「…」

 「あ、言いたくなかったらいいんだ。
 まあ、お大事に。
 じゃ」

 焦った感じで走り去っていった。

 驚いて女の子の背中を目で追う。

 なんなんだ ?

 でも、気になってた子に話しかけられるのは羨ましい。
 僕はどんなに頑張っても話しかけられない。

 きっと話せた頃の僕なら、あの女の子に名前とか年齢くらい、聞けたかもしれない。

 今の僕には無理だ。

 ああやって走り去るのも無理。
 歩くのでさえ、苦痛なのに、走るなんてもってのほかだ。

 きっと、あの子と僕は決定的に何かが違う。
 性格とかそんなわかりやすいものでも無い。

 神に授けられたものとかそういう、もっと壮大なものが。

 きっと、あの子と僕は、住む世界が違う。