エンドロール

 悪いことをしたわけではないから、警察署では待たされただけだった。

 想來くんはお母さんが迎えに来て、私は先生が迎えに来ることになった。

 さすがに、少し申し訳なくなってお巡りさんに言い返してしまう。

 「一人で帰れます。
 先生に迎えに来てもらわなくても、一人で大丈夫です」

 お巡りさんは困り顔だ。
 まだ未成年だから、明け方の街を一人で歩かせるのはわけにはいかないと顔が言っている。

 「そうは言っても、君は未成年だからな。
 先生にきちんと謝っておくんだよ ?」

 まるで親みたいな口調でそう言うと、私たちを置いて警察署を出ていった。

 別にわざわざ警察署じゃなくてもよかったんじゃないかと思う。
 交番の方が警察官の仕事も少ないし、大事にならないし、明らかよかったんじゃないかと思う。

 『ずいぶん、大袈裟なことになっちゃったね』

 メッセージが送られてきて、後ろを振り向く。

 椅子に座った想來くんは自嘲的な笑みを浮かべている。

 「ね。
 さすがに先生に申し訳なくなってくるよ」

 想來くんの隣に座りながら私も笑った。

 「想來くん、海の匂いする」

 『涼風さんも』

 想來くんは、私が椿輝だと知っても涼風さんと呼んでくれていた。

 それが居心地良くて、なんでも話したくなってしまう。

 「私ね、あのとき、想來くんと別れてから、親戚の家たらい回しにされて。
 きっと嫌だったんだろうね、あの父親の娘が。
 私が悪いわけじゃないってわかってても、扱いにくくて、みんな私のこと手放した。

 小学校卒業までは、ほんとに目まぐるしいスピードで色んなところに行って。
 あれ、日本一周できちゃったんじゃないかって思うくらい」

 泣かない。
 泣けない。
 鼻の奥が熱い。
 でも、泣いたら、止まらなくなる。

 「中学校に入って、やっと一人の叔母さんが預かってくれた。
 すごくいい人で、ほかの親戚と比べものにならないくらい居心地のいい家だった。

 でも、やっぱり気遣ってるのは丸見えで。
 わかってるんだよ、傲慢だって。
 こんな境遇の学生が、未成年なのに、施設にも行かず普通に暮らせてるってだけですごく幸せなのはわかってる。

 なんなんだろうね、この矛盾」

 そこで話は終わってしまった。

 想來くんのお母さんが来て、想來くんを叱った。
 でもすごくいい人で、私のこと、心配してくれた。

 母親特有の柔らかな雰囲気を纏った人で、私は久しぶりに心がぎゅっとなった。
 上手く言い表せないけど、久しぶりにお母さんに会えたようだった。

 「瑞輝ちゃん、気をつけて帰ってね」

 「はい、ありがとうございます」

 別れの挨拶をして、想來くんたちが警察署から出ていったタイミングで先生も来た。

 「涼風 !
 無事か !」

 額に汗が浮かんで、息が切れているところを見ると、走ってきたらしかった。

 「先生、ごめんなさい。
 迷惑かけて」

 途端に罪悪感が押し寄せる。
 泣きそうなくらい、胸が痛くなる。

 「謝るな。
 涼風が無事だっただけで良かったよ。
 帰ろう」

 もうダメだ。
 我慢できない。

 そう諦めがつくと、涙がとめどなく溢れる。

 「泣くなって」

 先生は戸惑いながらも、私の頭に手を乗せる。

 声が出ない。
 息が苦しい。

 ねえ、お母さん、私、お母さんいなくても幸せになれる。

 そんな当たり前なことが、今、やっとわかった。

 私の周りにはこんなにも優しい人たちがいる。
 私を助けてくれる人がいる。