「うん。
そうだよ。
私は、憂蒼椿輝、だった。」
ドラマだったら、ここら辺で中盤だろうなと、無駄なことを考える。
主人公の過去が次々に明かされていく後半戦。
次週が楽しみになるクライマックス。
『なんで ?
なんで、涼風瑞輝になったの ?
どうして、あのとき、いきなり離れて行っちゃったの ?』
涼風さんの目がキラキラ光る。
そろそろ沈む陽光に照らされて。
もう見逃さない。
震えている声も、潤んでいる目も。
椿輝ちゃんを助ける。
涼風さんを助ける。
「全部ちゃんと話す。
想來くんには話さなきゃダメだと思うから」
涼風さんは僕としっかり目を合わせ、そう言った。
その瞳の裏にはきっとこれ以上ない恐怖があるはずだ。
全てを自分の言葉で、自分の口から話すという怖さ。
それが僕にはわかる。
その事実を認めて、勇気を振り絞って、どう転ぶか分からないまま他人に話すという恐怖を僕は何度も実感している。
「立ち話でできる話でもないし、どっか別の場所に行きたい。
ふたりで話せるところ」
近くに海があってよかったと思った。
前に住んでいた時も近くに海があったけれど、あの海でも、よく堤防の上で椿輝ちゃんと話していた。
「懐かしいね」
同じことを思っていたのか、堤防にあがりながら、涼風さんがそう言った。
『うん』
僕らは静かに、隣合って座った。
涼風さんはあの時みたいに足をぶらぶらさせる。
「どこから話せばいいのかな。
さっき、ずっと考えてたんだけど、まだまとまってないや」
涼風さんは笑って言う。
その笑顔は、言うまでもなく悲しそうだった。
去っていってしまった何かを追うように前を見据えている。
そんな悲しそうな顔しないで。
『ゆっくりでいい』
「うん、ありがとう」
きっと覚悟もできていない。
僕も聞く覚悟ができていないのに、彼女が話す覚悟ができているとは思えなかった。
「とりあえずさ、想來くんがどこまで何を知っているか知りたい」
意を決したように涼風さんが口を開く。
どんな意味か図りかねて、黙ったままでいる。
「事故のこと、知ってる ?」
『うん』
椿輝ちゃんのお母さんが事故で死んでしまったのはすぐに知った。
僕のお母さんと椿輝ちゃんのお母さんはとても仲が良かったから、椿輝ちゃんの友達の中で僕が1番最初に知ったんじゃないかと思う。
「なら話も早いね。
私が想來くんの人生から出ていかなくちゃならなくなったのは、元はと言えばそれが原因。
原因ってのも変か」
涼風さんは軽く話す。
少しの辛さも寂しさも悲しさも見せずに。
そんな彼女を見ているのが辛かった。
「まあ要するに、私のお父さんが復讐したわけ。
お母さんを撥ねたトラック運転手に。
その事件のせいで、私は殺人犯の娘になった。
もともと良い父親じゃなかったから、私としては刑務所に入ってくれて清々したんだけどね」
────「 想來くんと一緒になれたら幸せだろうなと思う。」
────「こんな酷い日常から抜け出せると思う。」
幼き頃の椿輝ちゃんの台詞が蘇る。
椿輝ちゃんは辛かったんだ。
あの頃から。
僕があんなに未熟じゃなければ、あんなに無知で、憎いほど無邪気じゃなければ、椿輝ちゃんを助けられたのに。
僕の目からは知らぬ間に涙が零れる。
「あんな田舎だったら、噂なんて秒で広まるに決まってる。
私はあそこに居られなくなった。
憂蒼椿輝でいることができなくなった。
だから、別人になろうって決めたの。
PTSDって言われたのもあの日だったしね」
今の僕にならわかる。
あのとき、僕を突き放さなかった理由。
椿輝ちゃんなりに僕を傷つけない方法を考えていてくれていたんだ。
「あのときね、勢いで嫌いって言えていれば楽だった。
想來くん、しつこかったし。
でもね、あの想來くんの悲しそうな、寂しそうな、純粋に困惑している顔を見ていたらそんなのできるわけなかった。
だって好きだったからさ」
「好きだったからさ」と言う涼風さんの声が震える。
なんて言っているのか分からないほどに。
彼女の目から堰を切ったように涙が溢れ出る。
「離れたく、なかったから。
ずっとずっと、一緒が良かったから。」
二人して、激しく泣いてしまう。
『ごめん
ごめんごめんごめん
気づいてあげられなくて
力になれなくて
少し考えればわかったことなのに』
「ううん。
想來くんのせいじゃない」
彼女は、涙で顔を濡らしながら、涙声でそう言う。
「謝らないで。
謝るのは私の方。
ずっと、嘘ついてて、ごめんね。
1人にしてごめんね」
そうだよ。
私は、憂蒼椿輝、だった。」
ドラマだったら、ここら辺で中盤だろうなと、無駄なことを考える。
主人公の過去が次々に明かされていく後半戦。
次週が楽しみになるクライマックス。
『なんで ?
なんで、涼風瑞輝になったの ?
どうして、あのとき、いきなり離れて行っちゃったの ?』
涼風さんの目がキラキラ光る。
そろそろ沈む陽光に照らされて。
もう見逃さない。
震えている声も、潤んでいる目も。
椿輝ちゃんを助ける。
涼風さんを助ける。
「全部ちゃんと話す。
想來くんには話さなきゃダメだと思うから」
涼風さんは僕としっかり目を合わせ、そう言った。
その瞳の裏にはきっとこれ以上ない恐怖があるはずだ。
全てを自分の言葉で、自分の口から話すという怖さ。
それが僕にはわかる。
その事実を認めて、勇気を振り絞って、どう転ぶか分からないまま他人に話すという恐怖を僕は何度も実感している。
「立ち話でできる話でもないし、どっか別の場所に行きたい。
ふたりで話せるところ」
近くに海があってよかったと思った。
前に住んでいた時も近くに海があったけれど、あの海でも、よく堤防の上で椿輝ちゃんと話していた。
「懐かしいね」
同じことを思っていたのか、堤防にあがりながら、涼風さんがそう言った。
『うん』
僕らは静かに、隣合って座った。
涼風さんはあの時みたいに足をぶらぶらさせる。
「どこから話せばいいのかな。
さっき、ずっと考えてたんだけど、まだまとまってないや」
涼風さんは笑って言う。
その笑顔は、言うまでもなく悲しそうだった。
去っていってしまった何かを追うように前を見据えている。
そんな悲しそうな顔しないで。
『ゆっくりでいい』
「うん、ありがとう」
きっと覚悟もできていない。
僕も聞く覚悟ができていないのに、彼女が話す覚悟ができているとは思えなかった。
「とりあえずさ、想來くんがどこまで何を知っているか知りたい」
意を決したように涼風さんが口を開く。
どんな意味か図りかねて、黙ったままでいる。
「事故のこと、知ってる ?」
『うん』
椿輝ちゃんのお母さんが事故で死んでしまったのはすぐに知った。
僕のお母さんと椿輝ちゃんのお母さんはとても仲が良かったから、椿輝ちゃんの友達の中で僕が1番最初に知ったんじゃないかと思う。
「なら話も早いね。
私が想來くんの人生から出ていかなくちゃならなくなったのは、元はと言えばそれが原因。
原因ってのも変か」
涼風さんは軽く話す。
少しの辛さも寂しさも悲しさも見せずに。
そんな彼女を見ているのが辛かった。
「まあ要するに、私のお父さんが復讐したわけ。
お母さんを撥ねたトラック運転手に。
その事件のせいで、私は殺人犯の娘になった。
もともと良い父親じゃなかったから、私としては刑務所に入ってくれて清々したんだけどね」
────「 想來くんと一緒になれたら幸せだろうなと思う。」
────「こんな酷い日常から抜け出せると思う。」
幼き頃の椿輝ちゃんの台詞が蘇る。
椿輝ちゃんは辛かったんだ。
あの頃から。
僕があんなに未熟じゃなければ、あんなに無知で、憎いほど無邪気じゃなければ、椿輝ちゃんを助けられたのに。
僕の目からは知らぬ間に涙が零れる。
「あんな田舎だったら、噂なんて秒で広まるに決まってる。
私はあそこに居られなくなった。
憂蒼椿輝でいることができなくなった。
だから、別人になろうって決めたの。
PTSDって言われたのもあの日だったしね」
今の僕にならわかる。
あのとき、僕を突き放さなかった理由。
椿輝ちゃんなりに僕を傷つけない方法を考えていてくれていたんだ。
「あのときね、勢いで嫌いって言えていれば楽だった。
想來くん、しつこかったし。
でもね、あの想來くんの悲しそうな、寂しそうな、純粋に困惑している顔を見ていたらそんなのできるわけなかった。
だって好きだったからさ」
「好きだったからさ」と言う涼風さんの声が震える。
なんて言っているのか分からないほどに。
彼女の目から堰を切ったように涙が溢れ出る。
「離れたく、なかったから。
ずっとずっと、一緒が良かったから。」
二人して、激しく泣いてしまう。
『ごめん
ごめんごめんごめん
気づいてあげられなくて
力になれなくて
少し考えればわかったことなのに』
「ううん。
想來くんのせいじゃない」
彼女は、涙で顔を濡らしながら、涙声でそう言う。
「謝らないで。
謝るのは私の方。
ずっと、嘘ついてて、ごめんね。
1人にしてごめんね」
