先生は私の過去について無理に聞き出さず、話せるところまで話したところで解放してくれた。

 お母さんのことは言いたくなかったから、話したのは、親がいないってことだけ。
 色々事情があって、今、一緒に住んでいる人はいないとだけ話した。

 これだけでも、私の1歩だ。
 先生はそれを受け止めて、優しくお礼を言ってくれた。

 「よく頑張った。
 話してくれてありがとう」

 謝られるより、話させてごめんって謝られるより、100倍、気持ちが楽になった。


 昇降口の前で思わず立ち止まってしまった。

 彼がいる。
 想來くんが、玄関の戸に寄りかかっている。

 あそこにいたらバレずに出ていくなんて無理だ。

 「想來くん」

 靴を履いて呼びかけた。

 想來くんは微笑みを浮かべて振り向く。
 久しぶりに見る想來くんの笑顔で、私まで口角が上がってしまった。

 「どうしたの ?」

 『待ってた
 話、したい』

 断りたかった。
 もう私には想來くんと話す資格なんてない。

 『涼風さん、瑞輝じゃないんでしょ ?』

 その文面に息が止まるかと思った。
 いや、実際に止まったと思う。

 聞こえてたんだ。

 『聞こえちゃったんだよ
 もう、つばきじゃないって
 椿輝ちゃん、なんだよね』

 嘘はつけない。

 大きく息を吸う。

 いずれバレると思ってたことが、想定外のできごとによって少し早めにバレただけだ。

 今話さなければ、私は一生、自分を恨んでしまう。

 「うん。
 そうだよ。

 私は、憂蒼椿輝、だった」