エンドロール

 教室に向かう間も、あの想來くんの顔が瞼の裏にはっきりと焼き付いて離れなかった。

 どうしていたんだろう。
 学校は終わっているのに。

 目が合ったとき、私は思わず逸らしてしまった。

 あの想來くんの目には驚きと不安と、悲しみがごっちゃになって混ざっていた。

 気づいてしまったかな ?

 想來くん、ごめん。
 きっともう、あなたとは一緒にいられないよ。


 「涼風、何があったか話してくれるか ?」

 放課後の清掃も終わった静まり返った教室で、向かい合って座った担任の口からは優しい言葉が発せられる。

 「私の、父です。

 あの人がどこかで私の居場所を探り当てて、来たんです。
 私を連れ戻すために」

 「今、家に親はいる ?」

 首を横に振る。

 「お母さんは ?
 どこにいる ?」

 「言いたくない。
 思い出したくない」

 「お母さん、いないの ?」

 「だから、言いたくないんだって」

 「でも、保護者がいないと色々と問題になってしまう。
 親の許可なしに一人暮らしはこの学校で認められてないんだよ」

 「じゃあいなかったらどうなるの ?
 退学 ?」

 「それは事情も踏まえて学校側で審議するよ。
 とにかく、まずは、涼風の状況を知りたい」

 先生が、私を思って聞いてくれているのはわかっている。
 規則だから、仕方がないことも。

 でも、今の私に、母のことや父のことを詳しく話す元気はなかった。

 「無理です。
 言えません。
 言いたくないです」

 「それは、この先も言えない ?
 いつか、言えるようになる ?」

 先生は優しい。
 バイトのこともあれ以来、しつこく聞いてこない。
 私の事情を察してくれている。

 だから、この先生にならきっといつか、

 「言えるようになる。
 いつかちゃんと話す」

 「わかった。
 無理しなくていい。
 話せるときに話して」

 「うん」

 早く打ち明けて、心を軽くしたい気持ちもある。
 でも、話せるようになるのは怖い。

 誰かに話せるようになったら、誰かに話してしまったら、その事実を認めるってことだから。

 それでも、私は信じてる。
 いつか、いつかきっと、自分の口で話せる時が来ると信じてる。