エンドロール

 いつの間にか6月も中旬になった。

 もうすっかり想來くんも来なくなってしまって、少し寂しかったけど、何もかもが順調だった。

 はずなのに。

  「お父さん… !」

 生徒玄関の前で立ち止まった私の目は、心底丸くなっていたと思う。

 ありえない。
 信じられない。

 なんで ?
 どうしてここがわかったの ?
 どうしてここにいるの ?

 もう出てきたの ?

 お父さんは大股で近づいてきて何も言わずに私の腕を掴んだ。

 触らないで !

 私の心の声がそう叫ぶ。
 なのに、声は出ない。
 体だけが勝手に動く。

 必死で父の手を振りほどこうとした。

 でも、成人男性の力は高校生が振りほどけるほど軽いものではない。
 たとえ、中年だったとしても。

 「離して…。
 離してよ !」

 「いいから、黙ってついてこい」

 大事にしたくないのだろう。
 平然を装って私を連れ去ろうとする。

 きっと傍から見たら少し過保護な親が女子高生を迎えに来ただけだ。

 「やだよ。
 やめて」

 「少しだけだ。
 どこかで話をしよう」

 「ふざけんな !
 あんたに用なんかない !

 大体、なんでここにいるわけ ?」

 「それも話すから。
 1回だけだ。
 椿輝と話したいんだ」

 「うるさい !」

 野次馬がどんどん増えていく。

 きっともう、女子高生を連れ去ろうとしている不審者がいるとしか見えないはずだ。

 でも、口から転がりでる言葉が止まらない。

 「私はもう椿輝じゃない。
 あんたの娘でもない。
 もう赤の他人だよ」

 「何言ってるんだ。
 頭がおかしくなったのか」

 頭おかしいのはそっちだ。
 馬鹿にしたような笑みを浮かべている男の顔を睨む。

 鼻の奥が熱くなってきた。

 「おかしくなってなんかないよ。
 おかしかったのはそっちでしょ ?
 私の気持ちなんてそっちのけで自分の怒りをぶつけることに必死だった。

 そうやって私の人生を壊したんだよ !
 私は、今、涼風瑞輝なの。

 だから、もう邪魔しないで。
 私の人生から出ていってよ」

 周りの人に構わず、私の目からは涙が溢れる。

 「椿輝…。」

 「お願いだから…。
 もう一人で生きていくから。
 一生顔見せないで」

 元父親は戸惑いながらも諦めたのか去っていった。

 膝から崩れ落ちる。
 掴まれていた腕が痛い。
 腕に残る、父の温もりが憎い。

 堰を切ったように涙が止まらない。

 玄関口から担任がやってくる足音がした。
 きっと誰かが呼んだんだろう。

 やばい、バレる。
 全部バレる。
 そう思うけど、立つ気力もない。

 「涼風。
 一旦おいで」