エンドロール

 今日、想來くんは来なかった。

 昨日はお昼ご飯を食べる前に早退してしまったらしくまともに話せていない。

 心配だけど、たまに入院するほどの病気を患っているわけだからそのくらい普通なのかとも思う。
 ただ、メッセージも何も来ないのが少しだけ気がかりだった。


 想來くんが来なくなって1週間。
 私は、最悪の再会を果たした。

 「ねえ、憂蒼さんだよね ?」

 その呼び名にビクッと体が震える。
 振り返るとそこには見覚えのある顔があった。

 小学3年生の時の学級委員長だ。

 「國枝さん…」

 「やっぱそうだ !
 苗字変わってたから全然気づかなかった。
 名前も変わった…」

 彼女がその言葉を言い終わる前に私は彼女の手を取って体育館裏に走った。

 「ちょっと、どうしたの ?」

 顔が熱い。
 湯気が噴き出してそうだ。

 「もう、話しかけてこないで」

 思ったより鋭い声が出てしまう。

 國枝さんが唾を呑み込む音がした。
 心臓が痛い。

 「私は、もう憂蒼椿輝(うそうつばき)じゃない。
 涼風瑞輝。
 今は別人だから。
 國枝さんとも知り合いじゃない」

 「なんで、そんなこと言うの ?
 私たち、結構仲良かった方だと思ってたのに」

 たしかに、私と國枝さんは仲が良かった。
 今はなんとなく距離ができて苗字で呼んでいるけど、小学生の頃は名前で呼びあっていた。

 楽しい思い出が脳裏に蘇ってくるからこそ、辛かった。
 私は、私たちは、もうあの時とは違う。

 「ご両親のことは知ってるよ」

 その言葉に私は、咄嗟に顔をあげる。
 言わないで。

 「なんで名前変えたのか、察しもつく」

 言わないで。

 「でも、変わる必要なんてないよ。
 ここには昔の憂蒼さんを知ってる人は誰もいないでしょ ?」

 呼ばないで。
 憂蒼だなんて呼ばないで。

 「憂蒼さんは、悪くない。
 何も悪いことしてないんだから堂々としていればいいよ。
 だから…」

 「やめて !」

 つい大声を出してしまった。
 國枝さんが少し後ずさる。
 ごめん、國枝さん。

 「憂蒼って呼ばないで。
 もう、私は憂蒼じゃない。

 転校してから、何度も何度も頑張った。
 堂々としていようって。
 でも、毎回、お父さんのことバレて、虐められた。

 だから、名前を変えるしか無かったんだよ。
 そうするしか手段がないくらい追い込まれた。

 私は、憂蒼椿輝じゃない。
 あの子はもういない」

 「でも…」

 「もうやめてよ !
 何も言わないで。
 ようやく、私は憂蒼椿輝から解放されたんだから、放っておいてよ」

 私はそう言って踵を返した。

 陽乃たちの姿を見つけて駆け出す。

 私は、涼風瑞輝として、これからも生きていく。