エンドロール

 「想來くん、おはよう」

 無事、退院した翌日。
 校門で、涼風さんに声をかけられた。

 爽やかな笑顔。
 まさに涼風が吹いたような笑顔だ。
 椿輝ちゃんに似ているなと思ってしまう。

 「今日、昼休み、図書室」

 聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で、耳打ちしてきた。
 そのことが妙に嬉しくて口角が上がってしまう。

 「瑞希 !
 なーに、話してたの ?」

 涼風さんの友達らしき人が涼風さんにまとわりつく。

 涼風さんは、社会に出ても苦労しないタイプだろうなと、最初に見たときのように、つくづく思う。


 「あ、想來くん。
 ここ、ここ」

 昼休み、お弁当を持って図書室に行くと、僕より早く彼女が来ていた。

 僕の学校の図書室は、ふたつある。
 お弁当を食べられる図書室と、自習できる図書室。

 お弁当を食べられる図書室は割と騒々しい。
 なんだか本があるだけの食堂みたいな雰囲気だ。

 「なんか呼び出したみたいになっちゃってごめん。
 別に、用があるわけではないんだけどね。
 頑張って来るって言ってたから」

 そんな、涼風さんの優しさが胸に広がる。

 ほわっと温かくなって、少しだけ顔が熱い。

 「お弁当、いいね。
 お母さんが作ってくれてるの ?」

 僕は無言で頷く。

 涼風さんの前でだけ、話せたらいいのに。
 それでなくとも、気持ちを全部伝えられたらいいのに。

 「あ、そうだ。
 連絡先、交換しない ?
 想來くんは、メールの方が楽でしょ ?」

 思わず、天才かという顔をしてしまったと思う。

 そんなこと、今まで思いつかなくて、どうして思いつかなかったのか不思議になるほどだった。

 なるほど、メールという手段があったのか。

 「想來くんのお母さん、優しい ?」

 『うん』

 「いいなー。
 私、あんまり折り合い良くないからさ、そういう、優しい両親持ってるの羨ましい」

 涼風さんはコンビニの菓子パンを頬張りながら、そう言う。

 その無邪気さと純粋さ、素直さを眺めているうちに僕は、なんでも打ち明けたい気持ちになった。

 『お父さんはいない』

 「あ、そうなの」

 「あ」と、「そうなの」の間に小さく「やっぱり」が入っていた気がして、違和感を覚える。
 つい、顔を上げて涼風さんを見ると、目を逸らされてしまう。

 「あ、いや、聞こえちゃった ?
 別に、ストーカーとかそんなんじゃないよ。
 なんとなく、お父さんいないのかなっていうのは予想してた」

 気まずそうにして、顔が赤くなっている涼風さんは、ちょっと可愛くて、僕まで照れくさくなってしまった。

 『そうだったんだ
 僕の両親は、ちょうど中学に上がる年に離婚してて』

 「まあ、今どき、珍しいことでもないよね。
 友達にも何人かいるもん、ひとり親の子」

 お互いの間に漂う気まずさを消そうとして、明るい口調で言ってくれる。

 小さな心遣いをしてくれる涼風さんの横顔は綺麗で、思わず見惚れてしまう。

 「え、なんかついてる ?」

 僕の視線に気づいた彼女が聞いてきた。
 僕は慌てて目を逸らし、ぶんぶんと首を横に振った。

 「なんだよ、なんかついてるのかと思って焦ったじゃん」

 そう言って笑う彼女は、椿輝ちゃんそのもので、全くの別人なのになんだかとても愛おしくなってしまう。