恵萌への変身を解いたので、外見も能力も、一羽の鳥に戻った。
いわゆる、変身烏である。
真っ黒な外見だが、頭に銀色の線、翼の先端にも、銀色の羽根が混じる。輪郭も、普通のカラスに比べ、ギザギザした鋭さがある。
神々しい姿である。
江戸時代の著名な絵師が、描き残しているのもうなずける。
(紙飛行機よ、待て!)
漂う紙飛行機を、変身烏が追う。
くちばしをあけて、つかもうとするが、紙飛行機は風にあおられ、空中を不規則に舞う。さすがに、一発では捕まえられない。
ガチッ! ガチイッ! ガガッカッ!
空振り。くちばしが、空を切る。
三度の方向転換。高度は徐々に下がる。紙飛行機を中心に、行ったり来たり、八の字に飛ぶ。
からかうように、変身烏の、ほっぺたをかすめる紙飛行機。
(こいつめ……!)
しかし、変身烏は、それを楽しんでいるのだ。青空での鬼ごっこ。これはまさに、気分転換の遊び、運動なのである。
パシッ! ――つかんだ! 長いくちばしの先っぽに、紙飛行機がクシャッと挟まる。
直後、木の枝が、翼をかすめた。
「グァ!」
のどの奥で、鳴き声が出る。
黄色い木の葉が数枚、舞い散った。いつの間にか、二階ほどの低さまで下がっていたのだ。
そのまま急降下し、隣の校舎の方へ飛ぶ。別の棟の近く、大木と草の中へ着地。
(変・身・ッ・!)
ギュン!
今度も、黒い竜巻じみた突風が、全身を包み込む。
バネのように、黒い影が縦に、ビヨーンと、上と下へ、それぞれ伸びた。
カラスは、再び、女子高生・恵萌の姿に変わる。
「フゥーッ」
紺色のスカートの、特に後ろ側を、手で撫でて確認する。
変身烏は、羽根の大きさや色を変化させることによって、衣服を作り出している。半分は実体であり、もう半分は、人間の目の錯覚を利用した幻影であった。
ただ、もしも変身直前に羽根がめくれていて、そこの部分がスカートの裾となった場合には、スカートがめくれてしまっている時もあるのだ。
(大丈夫だ、な)
そのまま、腕を持ち上げ、髪型を整える。
パリリッ、パシッ。
手首に、放電みたいな、細い光の輪が現れ、すぐ消えた。
「おっと」
変身直後に、よく起こる現象。
払い落とすように、軽く手を振った。
(行くか)
ひょこっと茂みから抜け出し、飛び石のような、渡り廊下に向かう。細長い、三角の屋根が続いている。
恵萌は、正方形の敷石をまたいで、校舎へ入った。正面の出入り口とは別なので、目立たない。
一階の廊下を進む。突き当たりを右折すれば、一年生の教室が、A組から順番に並んでいる。
その手前の階段を、ちょうど、若い女性教師が降りてくるところだった。
富塚先生。たしか、三年生のどこかのクラスを受け持っている。
黒っぽい上着は、一見、フォーマル風だが、実はジャージ。下は、ブルーのスキニーパンツ。
(脚、細っ! 外ハネボブの髪型、渋っ!)
つい、この前まで、女子大生をやっていたみたいな雰囲気。
いわゆる、変身烏である。
真っ黒な外見だが、頭に銀色の線、翼の先端にも、銀色の羽根が混じる。輪郭も、普通のカラスに比べ、ギザギザした鋭さがある。
神々しい姿である。
江戸時代の著名な絵師が、描き残しているのもうなずける。
(紙飛行機よ、待て!)
漂う紙飛行機を、変身烏が追う。
くちばしをあけて、つかもうとするが、紙飛行機は風にあおられ、空中を不規則に舞う。さすがに、一発では捕まえられない。
ガチッ! ガチイッ! ガガッカッ!
空振り。くちばしが、空を切る。
三度の方向転換。高度は徐々に下がる。紙飛行機を中心に、行ったり来たり、八の字に飛ぶ。
からかうように、変身烏の、ほっぺたをかすめる紙飛行機。
(こいつめ……!)
しかし、変身烏は、それを楽しんでいるのだ。青空での鬼ごっこ。これはまさに、気分転換の遊び、運動なのである。
パシッ! ――つかんだ! 長いくちばしの先っぽに、紙飛行機がクシャッと挟まる。
直後、木の枝が、翼をかすめた。
「グァ!」
のどの奥で、鳴き声が出る。
黄色い木の葉が数枚、舞い散った。いつの間にか、二階ほどの低さまで下がっていたのだ。
そのまま急降下し、隣の校舎の方へ飛ぶ。別の棟の近く、大木と草の中へ着地。
(変・身・ッ・!)
ギュン!
今度も、黒い竜巻じみた突風が、全身を包み込む。
バネのように、黒い影が縦に、ビヨーンと、上と下へ、それぞれ伸びた。
カラスは、再び、女子高生・恵萌の姿に変わる。
「フゥーッ」
紺色のスカートの、特に後ろ側を、手で撫でて確認する。
変身烏は、羽根の大きさや色を変化させることによって、衣服を作り出している。半分は実体であり、もう半分は、人間の目の錯覚を利用した幻影であった。
ただ、もしも変身直前に羽根がめくれていて、そこの部分がスカートの裾となった場合には、スカートがめくれてしまっている時もあるのだ。
(大丈夫だ、な)
そのまま、腕を持ち上げ、髪型を整える。
パリリッ、パシッ。
手首に、放電みたいな、細い光の輪が現れ、すぐ消えた。
「おっと」
変身直後に、よく起こる現象。
払い落とすように、軽く手を振った。
(行くか)
ひょこっと茂みから抜け出し、飛び石のような、渡り廊下に向かう。細長い、三角の屋根が続いている。
恵萌は、正方形の敷石をまたいで、校舎へ入った。正面の出入り口とは別なので、目立たない。
一階の廊下を進む。突き当たりを右折すれば、一年生の教室が、A組から順番に並んでいる。
その手前の階段を、ちょうど、若い女性教師が降りてくるところだった。
富塚先生。たしか、三年生のどこかのクラスを受け持っている。
黒っぽい上着は、一見、フォーマル風だが、実はジャージ。下は、ブルーのスキニーパンツ。
(脚、細っ! 外ハネボブの髪型、渋っ!)
つい、この前まで、女子大生をやっていたみたいな雰囲気。

