思わず、龍輝は、シャツの胸ポケットを見下ろし、
「どっ、どういうことだい、アリーモ。俺としては、八方、手は尽くしたつもりなんだが……。まだ何か、方法があるってのか?」
胸ポケットのスマホが答える。
「うん。まず、その変身烏の、頭部を切り開くノ」
アリーモの提案は、なかなかにショッキングな内容であった。
「ええっ……。トウブって、頭のことかい?」
「そう。で、マイクロチップを埋め込むノ」
「そ、それで?」
「そのチップと、私が同期するわケ」
「あっ!」
途端に、話が見えてきた。
「龍輝にも、イメージ湧いタ?」
「――ああ、な、何となくな……。この変身烏は、一応、死んではいるようだが、どちらかといえば、仮死状態に近い……」
「そう。体内を撮影した限り、脳も内臓も乾燥してないし、血液も残ってたよね。あとは、脳波が復活すれば、再び、生き返るかもしれなイ」
「それを、アリーモが補うわけか」
「そういうこと。脳波というのは、言わば電気信号だからね。私はAIで、まさに電子情報。それを、埋め込みICで、変身烏の脳内へ流し込めば、もしかしたラ」
「なるほど……。だけど――だけどさ、そうなると、アリーモの人格は消えてしまう……」
それを聞いたアリーモの、合成音の声に笑いが混ざり、
「しっかりしてよ、龍輝。私に『人格』なんて無いわ。『自我』も無い。私は、プログラミングされただけの電子情報だヨ」
「まあ、そうなんだけどさ……」
それは、分かっている。
アリーモは、AIだ。龍輝の呼びかけに対して、言葉を返すことは出来る。ただし、だからといって、言葉の意味までも理解しているわけではない。受け答えのパターンを大量に記憶して、それらを組み合わせているにすぎない。
事実、普段、アリーモと話していて、会話がかみ合わないことも、時々はあるのだ。
ただ、理屈はそうであっても――
「……気持ちの問題だからさ。俺、アリーモと別れるのは、やっぱり寂しいぜ」
これも、龍輝の本音である。既に、三年の付き合い。愛着も湧くのが、人情だろう。
「バックアップは、取れないしネ」
アリーモの声音も、少し暗くなる。
アリーモの指摘は正しい。
人工知能のアリーモは、最初こそ、ただのAIアプリだった。
が、交流や改良を重ねるにつれ、人間的なやり取りが可能となった。それに伴って、やがてプログラムは複雑、膨大となり、もはやコピーが困難なレベルにまで達していた。
「だな。たとえ、ある程度までバックアップが出来るとしても、余分なサーバーの確保や、プログラム検証の手間を考えると……」
龍輝の語尾は、途切れてしまう。
アリーモが、引き継いだ。
「最低でも、数か月はかかるでしょうネ」
「そんなには待てない……」
分かり切ったことだった。
「だよね。龍輝の言うとおり。変身烏は、氷漬けだったけど、もう解凍してしまった。もし、マイクロチップを埋め込んで、私と同期させるなら、チャンスは今しかない。早くしないと、変身烏の脳も、内臓も、体も乾燥して、傷んで、いずれ腐敗が進んでしまウ」
一気に、容赦なく、アリーモが解説する。
「――」
(どうする……?)
せっかくの、アリーモの名案ではあった。
だが、ひいては、それは同時に、龍輝に対し大きな決断を、いきなり突き付けても来たのであった。
「どっ、どういうことだい、アリーモ。俺としては、八方、手は尽くしたつもりなんだが……。まだ何か、方法があるってのか?」
胸ポケットのスマホが答える。
「うん。まず、その変身烏の、頭部を切り開くノ」
アリーモの提案は、なかなかにショッキングな内容であった。
「ええっ……。トウブって、頭のことかい?」
「そう。で、マイクロチップを埋め込むノ」
「そ、それで?」
「そのチップと、私が同期するわケ」
「あっ!」
途端に、話が見えてきた。
「龍輝にも、イメージ湧いタ?」
「――ああ、な、何となくな……。この変身烏は、一応、死んではいるようだが、どちらかといえば、仮死状態に近い……」
「そう。体内を撮影した限り、脳も内臓も乾燥してないし、血液も残ってたよね。あとは、脳波が復活すれば、再び、生き返るかもしれなイ」
「それを、アリーモが補うわけか」
「そういうこと。脳波というのは、言わば電気信号だからね。私はAIで、まさに電子情報。それを、埋め込みICで、変身烏の脳内へ流し込めば、もしかしたラ」
「なるほど……。だけど――だけどさ、そうなると、アリーモの人格は消えてしまう……」
それを聞いたアリーモの、合成音の声に笑いが混ざり、
「しっかりしてよ、龍輝。私に『人格』なんて無いわ。『自我』も無い。私は、プログラミングされただけの電子情報だヨ」
「まあ、そうなんだけどさ……」
それは、分かっている。
アリーモは、AIだ。龍輝の呼びかけに対して、言葉を返すことは出来る。ただし、だからといって、言葉の意味までも理解しているわけではない。受け答えのパターンを大量に記憶して、それらを組み合わせているにすぎない。
事実、普段、アリーモと話していて、会話がかみ合わないことも、時々はあるのだ。
ただ、理屈はそうであっても――
「……気持ちの問題だからさ。俺、アリーモと別れるのは、やっぱり寂しいぜ」
これも、龍輝の本音である。既に、三年の付き合い。愛着も湧くのが、人情だろう。
「バックアップは、取れないしネ」
アリーモの声音も、少し暗くなる。
アリーモの指摘は正しい。
人工知能のアリーモは、最初こそ、ただのAIアプリだった。
が、交流や改良を重ねるにつれ、人間的なやり取りが可能となった。それに伴って、やがてプログラムは複雑、膨大となり、もはやコピーが困難なレベルにまで達していた。
「だな。たとえ、ある程度までバックアップが出来るとしても、余分なサーバーの確保や、プログラム検証の手間を考えると……」
龍輝の語尾は、途切れてしまう。
アリーモが、引き継いだ。
「最低でも、数か月はかかるでしょうネ」
「そんなには待てない……」
分かり切ったことだった。
「だよね。龍輝の言うとおり。変身烏は、氷漬けだったけど、もう解凍してしまった。もし、マイクロチップを埋め込んで、私と同期させるなら、チャンスは今しかない。早くしないと、変身烏の脳も、内臓も、体も乾燥して、傷んで、いずれ腐敗が進んでしまウ」
一気に、容赦なく、アリーモが解説する。
「――」
(どうする……?)
せっかくの、アリーモの名案ではあった。
だが、ひいては、それは同時に、龍輝に対し大きな決断を、いきなり突き付けても来たのであった。

