山村陽佳里は明るい子供だ。いつも真っ黒に日焼けして、ガリガリの体のくせに体力はあって外で遊ぶのが好きな子供だった。地域の神社にみんな集まってかくれんぼや鬼ごっこをしていた事を思い出す。

 俺が引っ越した直後くらいに、山村のお父さんは突然死んだらしい。お父さんのことが大好きだった山村は、半年くらいほとんど言葉を話すことも出来なかったそうだ。丁度その頃、お父さんの出身校である青陽高校関連の動画を見ていると、昔の応援団の動画がおすすめに出てきた。そしてその中に、涙を流しながら応援歌を熱唱しているお父さんの姿を見つけた。

「わたしね、それまでお父さんのこと好きだったけど、かっこいいって思ったこと無かったのよね。足、臭かったし。でもその動画を見て、なんて言うのかなぁ?きゅんっ!ってなっちゃったの。かっこいい!って。たぶん初恋よね、あれは。だからね、お父さんと同じ高校で応援団やろうって決めたの。私、そんなに頭良くなかったからいっぱい勉強したんだよ」

 足の臭さを暴露されたお父さんに同情を禁じ得ないが、山村が泣いた理由は理解できた。かっこいいお父さんの姿を“そんな事”と言われたのだ。15歳の女の子が泣いても無理はない。

「そうだったのか。お父さん、亡くなってたんだね。ごめんな。全然知らなくて」

「いいのよ。なんとか高校には合格できたんだけど、元々文章とか書ける方じゃないから水原くんが居ないとやっていけないと思うの。だからね、私のこと見捨てないでね」

 その言葉を聞いて、胸がトクンと鼓動を打った。巨乳のカワイイ幼なじみから“俺が居ないとやっていけない”“見捨てないでね”なんて言われてドキッとしない男がいるだろうか?いや、いるはずが無い。もしこれをわざとやっているとしたら、かなりしたたかであざとい女だ。

「お、おう、まかせとけ」

 山村の策略かもなんて思いながら、ついつい期待に応えようとする15歳の初夏だった。

 ◇

 翌日

「よし、これで良いんじゃないかな」

「ありがとう!水原くん!これでDS(ディープステート)の野望も打ち砕けるね!」

 DSの設定、まだ有効なんだ。

 なんとか設立趣意書と約款を作ることが出来た。ここまで来ればもう大丈夫だろう。あとは山村を生暖かく見守っていこう、と、そう思ったのだが、

「なんで発起人の所に俺の名前を書いてるの?」

 設立趣意書の発起人欄には、山村陽佳里と水原勇樹の名前が仲良く並んでいる。

「えっ?だって水原くん、一緒に応援団してくれるんでしょ?それに、発起人は最低2名必要だし」

 目を丸くして驚いた表情をする山村は相変わらずカワイイのだが、

「いや、俺は写真部なんだけど・・・」

「だって写真部ってほとんど活動してないじゃない。どうせ暇でしょ?それに、うちの学校、兼部OKだよ。大丈夫!」

 あ、こいつまた失礼なこと言い放った。

 とりあえず出来た書類を生徒会に持って行って、内容的に問題の無いことを確認してもらった。あとは顧問だけだ。

「山村、顧問の目処はあるのか?」

「うーん、担任の先生にお願いしたんだけど、忙しいから無理だって。水原くん、暇そうな先生知らない?」

「暇そうな先生って・・・、顧問お願いするときに“どーせ暇でしょ?”とかって言ってないよな?そんなこと言ったら絶対受けてくれないぞ」

「私のこと、何だと思ってる?ちゃんと礼儀くらい知ってるわよ。バカにしすぎ!」

 つまり、礼儀は知っているが俺に使うようなことはないらしい。

 翌日昼休み 校舎の屋上

「あ、それロン。メンタンピンドラ1、お、裏ドラ1個!満貫!」

「あー、それ切る?危険牌じゃん」

「そんなこと言ってもなぁ、テンパっちゃったし」

 俺は麻雀が好きなのだが正直弱い。高校に入ってから友達になったシンジ・タカヒロ・マサヒコと時々屋上で麻雀をしている。

「ところでさぁ、誰か応援団の顧問になってくれそうな先生、知らない?」

「何?勇樹って応援団に入るの?全然似合わないんだけど」

「成り行きでね。別に俺が学ラン着て応援するわけじゃないよ。俺は撮影係かな」

「ふーん、じゃあ国語の久美ちゃんとかどう?今年から赴任してきた先生だけど、たしか何の顧問もしてなかったと思うよ」

 テニス部に入っている雨宮シンジがちょっと恥ずかしそうに口を開いた。久美ちゃんとは現国と古文の見園(みその)久美先生のことだ。20代中盤の女性教師で、いつも物憂げな雰囲気を出している小柄でボブカットの美人教師である。

「へぇ、見園先生か。お願いしてみようかな。でもシンジ、顧問してないってよく知ってるね」

「お、おう、ちょっとな」

 何でモジモジしてるんだ?