強引に部室に連れ込まれた小島は山村の横の席に座らされてしまった。かなり気まずそうな顔をして、山村と仲山さんと俺を順番に伺っている。

「い、いいのかなぁ?私がお邪魔して。えっと、商店街でえびす饅頭を買ってきたからみんなと食べようかなぁって・・・」

 小島は手に持っていたレジ袋をテーブルに置いて、そこからボール紙の箱を取り出した。蓋を開けると湯気の出ている直径10センチほどのえびす饅頭が四つ顔を出す。焼きたてでおいしそうだ。

「わぁ、おいしそう!私、えびす饅頭大好きなんだよね!京子、タイムリーよ!」

 山村は一番に手を伸ばして饅頭を一つ掴んだ。遠慮なしにかぶりつく。まるで子供だ。

 俺は紅茶を入れてカップを小島の前にそっと置いた。

「本日はスリランカの茶葉にイタリア産のベルガモットで香りを付けたアールグレイでございます。お嬢様」

 俺は執事のような雰囲気を出して小島に軽く一礼した。小島はちょっと驚いて目をぱちくりさせている。そして俺は横目でちらっと山村を見た。

「もう!勇樹くん、私の時にはそんな事してくれなかったよ!当てつけ?」

 当てつけだよ。

「デリカシーの無いヤツに良いサービスは提供しない」

 山村はほっぺたをふぐのように膨らませて俺を睨んでいる。かわいい生き物だな。

「まあまあ、陽佳里も水原くんも落ち着いて。ね。なんで喧嘩してたの?」

 そう言われた山村はちょっと気まずそうな表情になる。仲山さんに投げかけた言葉で泣かしてしまったことにはやはり自覚があるようだ。

「ちょ、ちょっとね。私が仲山さんに空気の読めない事言っちゃって・・・・」

 山村の声がだんだんと小さくなっていく。仲山さんも気まずそうな顔をして俯いた。

「あー、確かに陽佳里、空気読めない事って昔から時々あるよねぇ。まあ、それがかわいい所なんだけどね」

 そういや子供の頃から小山は山村のことを妹のようにかわいがってたっけ。

「うん、悪いことを言っちゃったのは私なんだけど、だけどそれで勇樹くん私のことを悪者にするんだよ!ちょっと非道くない?」

 必死に自分の正当性を小島に訴える山村。しかし、口の周りにあんこをたっぷり付けていては説得力に欠けるぞ。

「そうなの?まあでも先ずはその口の周りのあんこをなんとかしないとね」

 小島はニコっと笑って右手を山村に伸ばした。そして人差し指で山村の口元のあんこをすくい取る。小島はそれを自分の口に持っていききれいに舐め取った。

 小島の突然の行為にびっくりした山村は、目をまん丸くして頬をちょっと赤らめている。これは“百合”なのか?百合展開が始まるのか?

「水原くん、陽佳里を悪者にするなんて非道いよね。そういや、ちょっと前にも水原くんの前で泣いてたよね、陽佳里」

 そういや、あのとき山村が泣いた理由を小島には説明してなかったっけ。まあ、あれは不可抗力というヤツだ。誰が悪いわけでもない。

「あれ見てたの?京子。水原くん非道いのよ!あのときは私の胸を揉んだあげくに非道いことを言うから泣いちゃったの!」

「「「えっ?」」」

 小島と仲山さんは信じられないものを見るような目つきで俺の方を見てくる。そして腰を浮かせてじりじりと俺から距離をとった。

「み、水原くん、ちょっとそれはどん引きだわ・・・。幼なじみだからって、やって良いことと悪いことがあるんだよ・・・」

 小島は口を歪めて壁際まで後ずさった。

「・・・事案・・・」

 仲山さんもぼそっとつぶやく。

「い、いや、待て待て!ちょっと待て!何てことを言うんだよ、山村!」

 山村はしてやったりという笑顔で俺の方を見ていた。くやしい。