「仲山さんって中学どこ?この近く?部活なにしてたの?」

「あ、えっと東中です。部活は野球部のマネージャーしてました」

 仲山さんは山村の勢いに押されているのか視線を逸らしながら答えている。

「野球部の女子マネしてたんだ。もしかして彼氏が野球部だったとか?選手を癒す仕事って大事だよね!応援団に通じるところがあるよ。きっと。高校じゃ野球部のマネージャーにならなかったんだね。それに東中ってすぐ近くだよね。いいなぁ。わたしなんか自転車で30分もかかるんだよぉ」

 選手を癒す仕事ってちょっと違うような気もしなくも無いが、山村の頭の中じゃどんなイメージなんだろう?

「野球部のマネージャーに・・・本当は・・・なりたかったんですけど・・・・・う・・・・ううううう」

 また泣き出した。

「ご、ごめん!仲山さん。わ、私何か悪いこと言っちゃったかな?」

「おい、山村、がっつきすぎだぞ」

 山村が左手を仲山さんの肩に乗せて心配そうに顔を近づけている。自分の言葉で傷つけてしまったかもと思って山村の目も潤んできた。泣いた友達につられて泣くなんて小学生か。

 それに急に泣き出すくらい精神が不安定ってことは、もしかすると彼氏がらみかもしれない。それなのに“野球部に彼氏がいたの?”とかデリカシーなさ過ぎだろ。

「ごめんな、仲山さん。山村も悪気があって言ったわけじゃ無いんだ。ちょっと人との距離感がバグってるだけなんだ。別に応援団に入った動機を詮索しないから安心して。そう、例えるなら過去の経歴は一切不問の外人部隊ってとこかな?」

「勇樹くん、なんか自分だけいい人アピールしてない?ちょっと卑怯だよ」

 山村がこっちを見て睨んできた。目つきが怖い。しかし、卑怯も何も間違いなく山村の言葉で泣き出したんだぞ。

「なっ、卑怯って何だよ?お前のデリカシーがなさ過ぎなんだよ」

「デリカシーが無いってどういうことよ!?この間はそのデリカシーの無い言葉で私を泣かせたくせに!!」

「わーー!ごめんなさい!!私のせいで喧嘩しないでください!ごめんなさい!本当にごめんなさい!」

 なんかカオスな状態になってきたなぁって思っていたら、窓の外からの視線に気付いた。日焼けした少女がじっとこっちを見ている。

「あ、小島」

「きょ、京子、いつから見てたの?」

 山村はあたふたとして仲山さんを隠すかのように窓際に立った。どうやら自分が仲山さんを泣かせてしまった自覚はあるようだ。

「あ、ごめん。おまんじゅう買ってきたからお茶でもごちそうになろうかなぁって思ってたんだけど・・・・、取り込み中のようだからまた今度にするね。じゃ」

 苦笑いを浮かべて軽く右手を挙げる小島。その手を目にも止まらない速さで窓越しに山村が掴んだ。

「帰っちゃだめ!ねっ?お茶出すから!」