銀木犀の約束

 
昼休み、秋風が吹き抜けるピロティ。

「で、恋の進展の方はいかがですか?夏凜さん」

プチトマトを食べながら、ベンチに座って足を組んだ詩葉(うたは)がこちらを向いて含みのある笑みを浮かべる。

「えー、恋の進展?別に、特に…」

グラウンドには、上級生たちに混ざってサッカーをする蒼太の姿があった。

その姿を無意識に目で追っていると、「笹岡(ささおか)君のこと好きなんでしょー。めっちゃ熱視線送ってたじゃん」と詩葉に指摘された。

ちなみに詩葉が言っていた『笹岡』というのは蒼太の苗字だ。

幼稚園の頃からずっと一緒で、家も隣で、家族同然のように過ごしてきた蒼太は私にとって『笹岡蒼太』ではなく『蒼太』でしかない。

「別に、好きじゃないし」

否定するも、頬の熱さはごまかしきれない。

「えー、顔真っ赤じゃん。かわいいかよ~」

「うわぁっ、やめてー!」

後ろから急に抱きつかれ、私は危うく弁当箱を落としそうになってしまった。

「ごめんごめん。」

恋愛ごとになると100%冷やかしてくるけど、『やめて』と言うとちゃんと謝ってくれるのが詩葉のいいところだ。

「てかさー、夏凜は嘘が下手だし鈍感だし、笹岡君が好きなんて一瞬でわかっちゃうよ」

「嘘が下手なのは認めるけど、鈍感ってひどいよ~」

詩葉にそう言い返すと、「えー、だって事実じゃん。」と飄々と言われてしまった。

「自分の気持ちにも、相手の気持ちにも鈍感すぎるんだって。はたから見てたら『早く付き合え!!』ってなるくらいには。」

そう付け加えた詩葉が、マヨネーズをつけたブロッコリーを口に放りこんだ瞬間、「黒瀬(くろせ)ー!今日呼び出しがあっただろー‼」と生活指導のおじさん先生が彼女を呼んだ。

「げ、最悪」

露骨に顔をしかめた詩葉が弁当箱の蓋を締めて立ち上がる。

「何の呼び出し?」

「スカート丈が短いだの、髪色が明るいだの。スカートは折ってるけど、生まれてこの方髪の毛は染めたことないのに」

詩葉がむすっとした表情でリップクリームを塗りながら、弁当袋片手に生活指導の先生についていく。