確か私が小学校低学年くらいの時だったと思う。
買い物帰り、金木犀に似たような形の白い花を見つけた私はお母さんに「これ、金木犀?」と聞いてみた。
「ううん。金木犀じゃなくて、銀木犀。」
「ぎんもくせい?」
そう聞いて、私は思いっきり息を吸って匂いを嗅いだ。でも匂いは感じない。
「あんまりにおいしないね。」
「金木犀は匂いが強いけど、銀木犀は近づかないと匂いはわからないの。」
近づかないとわからない、とお母さんの言葉に惹かれて私は銀木犀のある公園に立ち寄った。
当時の私の身長では、手を伸ばしても花までは届かなかったのでお母さんに体を持ち上げてもらって匂いを嗅いでみた。
「いいにおい!」
「そうね。お母さんが一番好きな花なんだよ」
「じゃあ、わたしも好き!」
幼い時の記憶を頭の中にリフレインさせていると、「おーい夏凜?ほんとに遅刻するぞー?」と蒼太の声が耳に届いた。
「うるさいなー。わかってるよー」
蒼太を置いてけぼりにして自転車を漕ぐと、秋の涼しい風が私の頬を撫で、髪を揺らし、スカートを揺らした。



