「蒼太ー‼」
シャカシャカと自転車を漕ぎながらこちらにやってきた私の幼なじみ――蒼太に手を振ると、「夏凜は朝から元気だなぁ」と苦笑された。
「だって元気だもん。」
スタンドを上げると、がしゃんとけたたましい音が朝の町に響いた。
「夏凜のチャリのスタンド、うるさいよな。自転車屋で直してもらったら?」
「えーめんどくさーい。」
わざとらしく口をとがらせて蒼太にそう返事すると、彼は困ったように肩をすくめて笑った。
「まあそれが夏凜らしいけどな」
突然の蒼太の発言に呆然としていると、「おーい、かりーん?早くいかないと遅刻するぞー?」と腹立たしい表情でこちらを見てきた。
「そんなんわかってるし。」
ぶっきらぼうに返事をして先に自転車を走らせると、「夏凜、待ってー!」と蒼太の情けない声が聞こえてきた。
「待たなーい!」
シャカシャカと自転車を漕いで蒼太から逃げても、さすが現役サッカー部、一瞬で追いつかれてしまった。
あっという間に前に出てしまった蒼太の後頭部の髪が一部分ぴょこんと跳ねているのを発見したので、「あ、寝癖ついてる。」と指摘する。
「まじか~。直したはずやのに」
蒼太は後頭部を手でなでつけながらスピードを落とし、私はそれに並んだ。
「あとで水つけたら?」
「そうする―。」
秋の涼しい風に乗って、わずかに甘い香りが届いた。思わず息を吸うと、その香りが鼻から入ってじんわりと胸の奥を満たしていく。
「金木犀だよな、夏凜の好きな花」
「ちがーう。私が好きなのは金木犀じゃなくて、銀木犀。」
金木犀も好きだけど、私が一番好きな花は銀木犀だ。
なぜ好きなのか、と考えるとき、思い出すのは決まってお母さんの言葉だ。



