「それでね、イザベラとメロディ嬢が毎日特訓しているから私も一緒になって頑張っているの」
毎日の登下校時の馬車の中は、私とシヴァが唯一二人きりでゆっくりできる時間だ。そこで私は学園であったことをシヴァに話すことが日課だった。
最近一番よく上がる話題は、イザベラとメロディのことだ。言っていた通りイザベラは本気でメロディの指導に当たっていた。どうやらメロディは昨年までの一年間で、基礎学力は十分な水域にまで達していたらしい。さすが本好きだっただけのことはある。その豊富な知識で学力に関しては成績上位になったため、私達と同じクラスに来ることは可能だった。
問題は、それ以外のところだ。食事のマナーから礼儀作法、カーテシー一つとっても本来であれば幼少期から何度も躾けられ染みつく動作。それらが彼女には欠けている。それを気にしたイザベラは繰り返しメロディにそれを教え込んでいった。
「どのルートに行くにしても、淑女クラスで問われるようなマナーや礼節は必須なの。今の状況じゃ、最低限のレベルにすら達していないわ」
そう言っていたのはイザベラだ。どうやらメロディ自身のことを心配しているのもあるが、彼女の恋を目の前で見るためにも、誰のルートに入っても問題がないよう手伝っているつもりなのだろう。
王族専用食堂で昼食後、少し残った時間を私達はメロディの特訓に使った。せっかくだからと、時折はマルグリータも残って一緒に練習していってくれる。お手本になる人が多い上、たくさんの目からアドバイスが飛んでくるのはメロディにとってもありがたいのだろう。彼女はどんどん成長していった。
「メロディ嬢も随分カーテシーが上手くなったのよ。それでもイザベラはまだ十歳レベルだって」
「さすがイザベラ嬢。なかなか厳しいな」
「でしょ?」
食堂でのやりとりは、シヴァも遠目から見ているのでなんとなくは知っている。私達が食事を摂ったり、特訓をしている間は従者として何かと私達の世話をしてくれていたのだ。
「シヴァの方は? 何か変わったことはあった?」
「いや、特に何も。卒業生の従者がいなくなって、新入生の従者が入った。そうやって顔ぶれが入れ替わった程度かな」
「そっか」
実際、私にはシヴァの生活のことはよく分からない。学園生活を私が送っている中で、同年代のはずの彼は従者として働き、空いた時間は勉強や魔法の練習にいそしんでいる。その程度のことしか知らないのだ。それがなんだか、少し寂しい。
「あ、でも昼食で出た賄の白身魚のソテーは旨かったな」
「本当に⁉ どんな味だったの? 家のシェフにお願いして、作ってもらおうかな」
毎日質問しても、シヴァは自分のことはあまり話してくれない。それがもどかしくもあるが、そういう性格なのでそれ以上は無理に踏み込まなかった。こんな風にたまに思い出したようにポツリと語る日常が、私にとっては何よりの宝物だ。
何か少しでも話が聞けたら嬉しそうにする私を見て、シヴァは満足そうに頭を撫でてくれる。黒い手袋はもうすっかり彼の手に馴染んでしまった。手の下には、きっと私のあげた指輪がはめられていることだろう。
そうして話す中でも、シヴァに言えないことはある。
ゲームの設定やヒロインであるメロディのルート分岐に関してだ。それに関しては二人きりや三人だけになった際に、ちょこちょこヤコブとイザベラと話はしていた。
恐らく、今一番仲が良いのはステファンだ。アレクサンドはイザベラ、レオナルドはマルグリータの方を向いているのだから残る攻略対象者はステファンとセドリックしかいない。ステファンは第一印象から良かったのか、メロディとは仲良く話しているのをよく見かける。特訓の最中も特に用事が無ければ、私達の様子を食堂に見守ってくれているほどだ。
セドリックはいつもすぐに帰ってしまうので、よく分からない。飄々としていて明るく人懐っこい、愛嬌のある彼ではあるが私達とは深く関わり合いになろうとはしていなかった。
「結局、このままステファンルートで確定かな?」
授業後に残って雑談中、私はそうイザベラとヤコブに聞いてみていた。
「そういえば、ゲーム開始前にメロディと出会っているのって、ステファンだけよね?」
「そうですね。そういうシナリオになっていたはずです」
イザベラに話を振らて、ヤコブは頷く。
「だったら、こうは考えられない?」
人差し指を立てながら話すイザベラは、すっかりゲームのファンだった優子の顔になっていた。ずいぶんと楽しそうだ。
「ロミーナとの仲がこじれているだけで、本当は気持ち的に一番最初にメロディに惚れるのはステファンだったのよ。だから、今の状況でも惹かれ合っていってるんだわ」
「なるほど、面白い解釈ですね」
「でしょう!?」
そうしてイザベラとヤコブは楽しそうに話している。そんな中でも、私はずっと気にかかっていることがあった。
悪役令嬢側の末路なんて、ゲームの時には気にもしなかった。でも、今実際に全員と知り合ってみると、どうしても考えてしまう。このままメロディがステファンルートに入ってしまって、ロミーナと婚約解消することになってしまったら。その時、残されたロミーナはどうするのだろうか。
毎日の登下校時の馬車の中は、私とシヴァが唯一二人きりでゆっくりできる時間だ。そこで私は学園であったことをシヴァに話すことが日課だった。
最近一番よく上がる話題は、イザベラとメロディのことだ。言っていた通りイザベラは本気でメロディの指導に当たっていた。どうやらメロディは昨年までの一年間で、基礎学力は十分な水域にまで達していたらしい。さすが本好きだっただけのことはある。その豊富な知識で学力に関しては成績上位になったため、私達と同じクラスに来ることは可能だった。
問題は、それ以外のところだ。食事のマナーから礼儀作法、カーテシー一つとっても本来であれば幼少期から何度も躾けられ染みつく動作。それらが彼女には欠けている。それを気にしたイザベラは繰り返しメロディにそれを教え込んでいった。
「どのルートに行くにしても、淑女クラスで問われるようなマナーや礼節は必須なの。今の状況じゃ、最低限のレベルにすら達していないわ」
そう言っていたのはイザベラだ。どうやらメロディ自身のことを心配しているのもあるが、彼女の恋を目の前で見るためにも、誰のルートに入っても問題がないよう手伝っているつもりなのだろう。
王族専用食堂で昼食後、少し残った時間を私達はメロディの特訓に使った。せっかくだからと、時折はマルグリータも残って一緒に練習していってくれる。お手本になる人が多い上、たくさんの目からアドバイスが飛んでくるのはメロディにとってもありがたいのだろう。彼女はどんどん成長していった。
「メロディ嬢も随分カーテシーが上手くなったのよ。それでもイザベラはまだ十歳レベルだって」
「さすがイザベラ嬢。なかなか厳しいな」
「でしょ?」
食堂でのやりとりは、シヴァも遠目から見ているのでなんとなくは知っている。私達が食事を摂ったり、特訓をしている間は従者として何かと私達の世話をしてくれていたのだ。
「シヴァの方は? 何か変わったことはあった?」
「いや、特に何も。卒業生の従者がいなくなって、新入生の従者が入った。そうやって顔ぶれが入れ替わった程度かな」
「そっか」
実際、私にはシヴァの生活のことはよく分からない。学園生活を私が送っている中で、同年代のはずの彼は従者として働き、空いた時間は勉強や魔法の練習にいそしんでいる。その程度のことしか知らないのだ。それがなんだか、少し寂しい。
「あ、でも昼食で出た賄の白身魚のソテーは旨かったな」
「本当に⁉ どんな味だったの? 家のシェフにお願いして、作ってもらおうかな」
毎日質問しても、シヴァは自分のことはあまり話してくれない。それがもどかしくもあるが、そういう性格なのでそれ以上は無理に踏み込まなかった。こんな風にたまに思い出したようにポツリと語る日常が、私にとっては何よりの宝物だ。
何か少しでも話が聞けたら嬉しそうにする私を見て、シヴァは満足そうに頭を撫でてくれる。黒い手袋はもうすっかり彼の手に馴染んでしまった。手の下には、きっと私のあげた指輪がはめられていることだろう。
そうして話す中でも、シヴァに言えないことはある。
ゲームの設定やヒロインであるメロディのルート分岐に関してだ。それに関しては二人きりや三人だけになった際に、ちょこちょこヤコブとイザベラと話はしていた。
恐らく、今一番仲が良いのはステファンだ。アレクサンドはイザベラ、レオナルドはマルグリータの方を向いているのだから残る攻略対象者はステファンとセドリックしかいない。ステファンは第一印象から良かったのか、メロディとは仲良く話しているのをよく見かける。特訓の最中も特に用事が無ければ、私達の様子を食堂に見守ってくれているほどだ。
セドリックはいつもすぐに帰ってしまうので、よく分からない。飄々としていて明るく人懐っこい、愛嬌のある彼ではあるが私達とは深く関わり合いになろうとはしていなかった。
「結局、このままステファンルートで確定かな?」
授業後に残って雑談中、私はそうイザベラとヤコブに聞いてみていた。
「そういえば、ゲーム開始前にメロディと出会っているのって、ステファンだけよね?」
「そうですね。そういうシナリオになっていたはずです」
イザベラに話を振らて、ヤコブは頷く。
「だったら、こうは考えられない?」
人差し指を立てながら話すイザベラは、すっかりゲームのファンだった優子の顔になっていた。ずいぶんと楽しそうだ。
「ロミーナとの仲がこじれているだけで、本当は気持ち的に一番最初にメロディに惚れるのはステファンだったのよ。だから、今の状況でも惹かれ合っていってるんだわ」
「なるほど、面白い解釈ですね」
「でしょう!?」
そうしてイザベラとヤコブは楽しそうに話している。そんな中でも、私はずっと気にかかっていることがあった。
悪役令嬢側の末路なんて、ゲームの時には気にもしなかった。でも、今実際に全員と知り合ってみると、どうしても考えてしまう。このままメロディがステファンルートに入ってしまって、ロミーナと婚約解消することになってしまったら。その時、残されたロミーナはどうするのだろうか。

