冬も終わり、すっかり暖かくなった春。とうとう学園の入学式が始まった。ゲーム本編開始である。
広い講堂は入学を許された新入生と在校生、そして学園関係者で埋め尽くされていた。高い天井の窓からは春の柔らかな日差しが差し込み、講堂全体を明るく照らしている。新入生たちは真新しい制服に身を包み、期待と緊張の入り混じった面持ちで学園生活への第一歩を踏み出そうとしていた。正面の壇上には、アレクサンドが代表者として立っている。昨年も同じような台詞を聞いた気がする。あれから一年も経ったのだと思うと感慨深いものだ。
「新入生の皆さん、この歴史と伝統あるリヒハイム王立学園への入学、心より歓迎いたします。この学園で、皆さんが自己を磨き、未来の王国を担う者としての資質を養うことを期待しています」
現在の学年は三年生がアレクサンド、ステファン、ロミーナの三人。二学年目に私とイザベラ、レオナルドとヤコブ、そしてゲームのヒロインの五人。一年生にマルグリータと最後の攻略対象者の二人だ。
ヒロインは同じ学年と言うこともあり、近くの席に座っていたので遠目から外見を見ることができた。
腰まで伸びたストロベリーブロンド。シンプルな白いリボンが彼女の可愛らしさを引き立たせている。まん丸でぱっちりしたレモン色の目に、長く上を向いたぱっちりしたまつ毛。細く長い手足に真っ平らな胸。制服を着た姿は間違いなく、ゲームで何度も見てきたヒロインの姿だ。
……そう、あのゲームのヒロインは制作側が何を考えたのか、まな板で、ぺったんこで、断崖絶壁なことで有名なのだ。
乙女ゲームであんなスタイルのヒロインが他にいただろうか。制作陣の趣味かと思ったが、はっきり言ってリリアンナはそこそこ胸がある。イザベラなんて巨乳と言っていいだろう。ロミーナも大きい方だし、マルグリータだって慎ましやかだが確かにある。何故ヒロインだけ……というか、まな板キャラにしたいなら他のキャラでも良かったのでは? とは正直思う。
ヒロインのコスプレをした人が、胸に本物のまな板を入れていたとかがネタになっていたはずだ。そんなことを思い出し、スタイルだけは細身の男性と変わりないヒロインを見て、私は何とも言えない気持ちになった。
「有意義な学園生活が送れるよう祈っています」
考え事をしている間に、アレクサンドが最後の台詞を言い終える。会場には拍手が広がった。
入学式は終わり、この後は各々解散だ。今回は昨年のように婚約者である私と、側近候補達との顔合わせをセッティングする必要もないため、何も約束はしていない。いや、約束しようとしても意地でも断ったはずだ。この後はいよいよゲームのオープニング。ヒロインが学園内を探索し、様々な攻略対象と出会い、会話を交わしていく。
ファンとしては、それを見逃すわけにはいかない。今日ばかりは、シヴァには馬車で待ってもらった。シヴァがいたら不審がられるだろうから。連れて行くなら、同じ転生者であるヤコブ一択だ。
「とうとうですね」
「はい! あ、席を立ちましたよ。追いましょう」
ちゃっかり隣同士で座っていた私とヤコブは、周囲に聞こえないよう小声で話す。ヒロインを見逃さないよう追わなければ。心なしか二人共、背を低くしながら歩いていた。
広い校舎の吹き抜けになっている廊下は、春の暖かな日差しが降り注いでいた。ヒロインはきょろきょろと周囲を見渡しながら歩いている。中庭に植えられた樹木から、桜によく似た淡いピンク色の花びらが風に舞い上がった。光を浴びてキラキラと輝いた花びらは、廊下へと流れ込んできた。そんな風に吹かれてヒロインのストロベリーブロンドが揺れる。その乱れた髪を片手で押さえると、彼女は青空を見て優し気に微笑んだ。
それは、まるでゲームのオープニング映像のように美しく、夢見心地な光景だった。風がおさまってくると、ヒロインは思わず足を止め、ひらひらと落ちる花びらに手を伸ばす。手のひらに乗った花びらを、彼女は面白そうにふっと息をかけて飛ばしていた。
この先で、最初にアレクサンドと出会うのだ。きっかけは確か、廊下の曲がり角でぶつかてしまい、慌ててヒロインが謝罪をする。そんな彼女をアレクサンドが労ってくれるのだ。
絶対に見逃せない。良い位置取りをしようと、私は慌ててその廊下の窓枠の影に身を潜めた。私の隣にヤコブもそっとしゃがみ込む。ほとんどの生徒は帰ったはずだから、見られることは無いだろう。
「そういえば、なんでヒロインはああいうスタイルなの?」
「一人くらいはそういうキャラにしようというのは話し合っていたんですけどね。気付いたらそれがヒロインになっていました。……まあ、ある意味話題にはなったかなと」
二人が接触するまでの間、こっそり隣にいるヤコブに尋ねる。別にヤコブ一人でゲームを作ったわけではないし、詳細を知らない部分もあるのだろう。ヤコブも思う所があるのか苦笑いしていた。
中庭を一通り眺めたヒロインが奥の建物へ足を進める。それを眺めていると、ふと視界の端に見知った人物を見つけた。その人物は私とヤコブと同じように、ヒロインをじっと観察している。少し遠めの木の陰に隠れており、もしかしたらこちらは見えていないのかもしれない。
……声を掛けた方がいいのだろうか。
「あ、殿下が来ましたよ!」
気を取られていたが、ヤコブの声で私は慌ててヒロインへと視線を移した。
広い講堂は入学を許された新入生と在校生、そして学園関係者で埋め尽くされていた。高い天井の窓からは春の柔らかな日差しが差し込み、講堂全体を明るく照らしている。新入生たちは真新しい制服に身を包み、期待と緊張の入り混じった面持ちで学園生活への第一歩を踏み出そうとしていた。正面の壇上には、アレクサンドが代表者として立っている。昨年も同じような台詞を聞いた気がする。あれから一年も経ったのだと思うと感慨深いものだ。
「新入生の皆さん、この歴史と伝統あるリヒハイム王立学園への入学、心より歓迎いたします。この学園で、皆さんが自己を磨き、未来の王国を担う者としての資質を養うことを期待しています」
現在の学年は三年生がアレクサンド、ステファン、ロミーナの三人。二学年目に私とイザベラ、レオナルドとヤコブ、そしてゲームのヒロインの五人。一年生にマルグリータと最後の攻略対象者の二人だ。
ヒロインは同じ学年と言うこともあり、近くの席に座っていたので遠目から外見を見ることができた。
腰まで伸びたストロベリーブロンド。シンプルな白いリボンが彼女の可愛らしさを引き立たせている。まん丸でぱっちりしたレモン色の目に、長く上を向いたぱっちりしたまつ毛。細く長い手足に真っ平らな胸。制服を着た姿は間違いなく、ゲームで何度も見てきたヒロインの姿だ。
……そう、あのゲームのヒロインは制作側が何を考えたのか、まな板で、ぺったんこで、断崖絶壁なことで有名なのだ。
乙女ゲームであんなスタイルのヒロインが他にいただろうか。制作陣の趣味かと思ったが、はっきり言ってリリアンナはそこそこ胸がある。イザベラなんて巨乳と言っていいだろう。ロミーナも大きい方だし、マルグリータだって慎ましやかだが確かにある。何故ヒロインだけ……というか、まな板キャラにしたいなら他のキャラでも良かったのでは? とは正直思う。
ヒロインのコスプレをした人が、胸に本物のまな板を入れていたとかがネタになっていたはずだ。そんなことを思い出し、スタイルだけは細身の男性と変わりないヒロインを見て、私は何とも言えない気持ちになった。
「有意義な学園生活が送れるよう祈っています」
考え事をしている間に、アレクサンドが最後の台詞を言い終える。会場には拍手が広がった。
入学式は終わり、この後は各々解散だ。今回は昨年のように婚約者である私と、側近候補達との顔合わせをセッティングする必要もないため、何も約束はしていない。いや、約束しようとしても意地でも断ったはずだ。この後はいよいよゲームのオープニング。ヒロインが学園内を探索し、様々な攻略対象と出会い、会話を交わしていく。
ファンとしては、それを見逃すわけにはいかない。今日ばかりは、シヴァには馬車で待ってもらった。シヴァがいたら不審がられるだろうから。連れて行くなら、同じ転生者であるヤコブ一択だ。
「とうとうですね」
「はい! あ、席を立ちましたよ。追いましょう」
ちゃっかり隣同士で座っていた私とヤコブは、周囲に聞こえないよう小声で話す。ヒロインを見逃さないよう追わなければ。心なしか二人共、背を低くしながら歩いていた。
広い校舎の吹き抜けになっている廊下は、春の暖かな日差しが降り注いでいた。ヒロインはきょろきょろと周囲を見渡しながら歩いている。中庭に植えられた樹木から、桜によく似た淡いピンク色の花びらが風に舞い上がった。光を浴びてキラキラと輝いた花びらは、廊下へと流れ込んできた。そんな風に吹かれてヒロインのストロベリーブロンドが揺れる。その乱れた髪を片手で押さえると、彼女は青空を見て優し気に微笑んだ。
それは、まるでゲームのオープニング映像のように美しく、夢見心地な光景だった。風がおさまってくると、ヒロインは思わず足を止め、ひらひらと落ちる花びらに手を伸ばす。手のひらに乗った花びらを、彼女は面白そうにふっと息をかけて飛ばしていた。
この先で、最初にアレクサンドと出会うのだ。きっかけは確か、廊下の曲がり角でぶつかてしまい、慌ててヒロインが謝罪をする。そんな彼女をアレクサンドが労ってくれるのだ。
絶対に見逃せない。良い位置取りをしようと、私は慌ててその廊下の窓枠の影に身を潜めた。私の隣にヤコブもそっとしゃがみ込む。ほとんどの生徒は帰ったはずだから、見られることは無いだろう。
「そういえば、なんでヒロインはああいうスタイルなの?」
「一人くらいはそういうキャラにしようというのは話し合っていたんですけどね。気付いたらそれがヒロインになっていました。……まあ、ある意味話題にはなったかなと」
二人が接触するまでの間、こっそり隣にいるヤコブに尋ねる。別にヤコブ一人でゲームを作ったわけではないし、詳細を知らない部分もあるのだろう。ヤコブも思う所があるのか苦笑いしていた。
中庭を一通り眺めたヒロインが奥の建物へ足を進める。それを眺めていると、ふと視界の端に見知った人物を見つけた。その人物は私とヤコブと同じように、ヒロインをじっと観察している。少し遠めの木の陰に隠れており、もしかしたらこちらは見えていないのかもしれない。
……声を掛けた方がいいのだろうか。
「あ、殿下が来ましたよ!」
気を取られていたが、ヤコブの声で私は慌ててヒロインへと視線を移した。

