シヴァについてあれこれ難しく考えるのは、やめにした。考えたって分からないものに悩んで、成績を落としたら大変だ。
「おっ……わった~」
十日間の試験期間を終えて、私はぐっと背伸びをした。体中の凝りが軋むような感覚が何とも気持ちいい。
「お疲れ様です」
真後ろのヤコブがねぎらいの言葉をかけてくれる。一番後ろの席のレオナルドを見ると、机に突っ伏してぐったりしていた。彼らしい光景に思わず笑ってしまう。イザベラを見ると、疲れた様子は見られなかった。周囲の令嬢といつも通り会話をしている姿を見ると、さすがだなぁと感心してしまう。
「今日は午後は休講ですが、この後はどうしますか? 昼食とか」
「そうよね。どうしようかしら……」
「姉上、食堂行きましょうよ!」
急に声を掛けられ驚いてしまう。見るとレオナルドがにこにこ笑っていた。いつの間にか復活したようだ。
「兄上が労いのデザートを用意してるって言ってましたよ」
「そう言われると、行きたくなるわね」
少し考え、行くことに私は決めた。席を立つと、せっかくだからとイザベラにも声を掛ける。
「労いにってデザートが用意されているそうなの。食堂に行かない?」
「あら、良いわね」
イザベラも立ち上がり、四人で教室を出る。私と接することが多くなったことで、イザベラへの明確な悪口はすっかりなりを潜めていた。心なしか明るい彼女の様子に安心してしまう。シヴァやイザベラの侍女とも合流し、食堂に着くとすでにアレクサンドたちが到着していた。
王族専用の食堂は、試験の終わりを祝う穏やかな空気に満たされていた。窓からは柔らかな日差しが差し込み、磨き上げられたテーブルには、すでに見た目にも鮮やかな料理が並び始めている。
「試験お疲れ様」
「アレクサンド様こそ、お疲れ様です」
席に着くと、早速食事が運ばれてくる。最初に運ばれたのは、透き通った黄金色のコンソメスープ。続くメインディッシュは、ハーブとスパイスで香り高く焼き上げられた仔羊のローストで、その表面は食欲をそそる飴色に輝き、ジューシーな肉汁を湛えている。付け合わせの色鮮やかな地野菜は、ソースとのコントラストが美しく、皿の上は芸術品のようだった。試験明けのせいか、どれもいつも以上に美味しい気がする。
皆が料理を堪能し、会話が弾んだ頃、本命のデザートが運ばれてきた。ガラスの器に盛り付けられた豪華なタルトだ。艶やかなカスタードクリームの上に、収穫されたばかりの新鮮なベリーや黄金色の桃が溢れんばかりに飾られている。繊細な飴細工の蝶が添えられ、その甘く芳醇な香りが部屋中に広がる。私を含めた女性陣は、そのあまりの豪華さに感嘆の声を上げた。
口に入れると、甘さ控えめなさくさくのタルト生地にバニラの香り漂う甘いカスタードクリームが口の中に広がる。それに対し、ベリーや桃はさっぱりしているため飽きずに食べ続けられる。あまりの美味しさに、夢中になって頬張った。シヴァにも食べさせてあげたかったが、持ち帰りできないのが残念だ。
「で、本題なんだけどね」
食後の満足感に浸っている皆に、急にアレクサンドが声を掛けた。話を止めて皆がアレクサンドを見る。
「この後、二週間の長期休暇があるよね。休暇明けに、学園祭があるのは分かるかな?」
そうだ。すっかり忘れていたが、ゲーム本編でもあったエピソードだ。学園祭を誰と一緒に回るかで、誰のルートに進んだかがわかる。ここまでの成績や好感度が、ある程度のレベルに達していないと攻略対象にフラれてしまい、攻略難易度がさらに上がってしまうのだ。
アレクサンドのように、その時期に一番学園内で身分の高い者が運営代表者に選出されて、学園から声が掛かる。アレクサンドは去年同様、声を掛けられたのだろう。この話をしたくて、わざわざレオナルドが声を掛けたのだろうか? そう思い彼をちらりと見ると、気まずそうに口笛を吹いていた。絶対わざとだ。
「昨年もありましたネ。お手伝いさせて頂きましタ」
「昨年はありがとう。頼りだった先輩方は卒業してしまったし、今の三学年には特に人材もいないし……できればこのメンバーで運営していきたいと思っているんだ」
アレクサンドはティーカップを静かにテーブルに置くと、皆に視線を投げかける。その真剣な眼差しに、一同の間に緊張感が走った。
「そういうことならぜひお手伝いさせて下さい。仕事内容は何がありますか?」
メガネをくいっと上げながらヤコブが尋ねた。レオナルドも明るい表情でアレクサンドを見ている。
「もちろん、兄上の手伝いはしますよ。ね、姉上」
「え、ええ」
私は不意に話を振られ、少し慌てて頷いた。私の隣で、イザベラは期待を込めた眼差しをアレクサンドに向けている。
「私も参加させて頂いてよろしいのかしら?」
「もちろん、頼りにしているよ」
アレクサンドの言葉に、イザベラは微かに頬を赤らめながら微笑む。彼女に耐性ができたので、今までのようにあからさまな好意を向けている様子は見られず、ポーカーフェイスを貫いている。その控えめな様子がなんともいじらしく可愛らしい。
「休暇中に、何度か呼び出しても良いかな? 念のため、今判明しているスケジュールは手紙で教えて欲しい。追って連絡するよ」
皆が真剣な表情で頷き返す。
真剣な表情をしているが、一学年である私を含めた面々は心なしか嬉しそうだ。私だって、ゲーム本編のイベントに関われることにドキドキしてしまう。ゲーム本編では各クラスごとの出店や、研究発表が主だった。許可が取れれば周辺の商店も出店を行い、周辺の貴族達が集まる一大イベントになるはずだ。私はシヴァ目当てにアレクサンドしか攻略していないが、青空に花火が打ち上がっているスチルは美しかった。
あの光景を目の前で見られるなんて、わくわくする。胸の中であの光景を思い出しながら、私はアレクサンドの言葉に耳を傾けた。
***
休暇までの残り三日。その間に廊下には、各学年の上位成績者が貼り出されていた。多くの生徒たちが押し寄せ、廊下は興奮した人混みに包まれている。私もイザベラと肩を並べ、人々の間を縫って掲示板の前にたどり着いた。周囲は成績への期待と不安が入り混じった明るい雰囲気だ。
各試験内容と、総合評価の上位者十名までが書かれている表を見る。頑張ったつもりではあるが、成績はどうだっただろうか。それに、皆の成績も見てみたい。
「見て! 魔法の実技はリリアンナが一位よ」
「イザベラこそ、筆記試験二位じゃない。淑女クラスも二位よ」
私は筆記試験は欄外だったらしく、載っていなかった。しかし、さすが魔力は多いし通常よりも早い時期から魔法訓練をしていたのだ。魔法で負けることは無い。
続いて選択クラスを見ると、淑女クラスでは私が一位だった。王妃教育まで受けているのに、他に負けてしまっては面目が立たない。ロミーナにライ語を学んでいた成果も発揮されているのだろう。後でお礼を言わなくちゃ。
「リリアンナは淑女クラス一位じゃない。さすがに王妃教育を受けているだけあるわ」
明るくイザベラは褒めてくれるが、そんな私と僅差であるイザベラが凄いのだ。文官クラスではヤコブが圧倒の一位だった。レオナルドはと言うと、無難にどの科目も五位をキープしている。全て五位とか、地味に凄いかもしれない。
最後に総合成績を見てみる。一位はヤコブ・ヘルトル。魔法実技以外はほぼ満点だったようだ。さすがだなと思いながら周囲を見ていると、人混みの中、ほっと胸を撫で下ろしている彼が見えた。成績上位者でなければ、あの王族専用食堂を使ったり、アレクサンドの側近候補でいることはできない。この成績は彼にとって死活問題でもあるのだ。
二位はイザベラ・ナンニーニ。一位こそ取らないものの、安定して三位以内には入っていた結果だろう。三位が私、リリアンナ・モンリーズ。筆記試験は劣る所があるものの、淑女クラスや魔法などの実技の高得点で助かった。四位にはレオナルド・リヒハイム。安定して全て五位を取っているというのが、総合成績で響いたようだ。
いつものメンバーが全員上位にいて、ほっと一安心する。一息つくと、私は二学年目の成績を見に場所を移す。
総合一位は文句なしにアレクサンドだった。次いでロミーナ、ステファンが並ぶ。あの面々はさすがだ。特に外国語に関してはロミーナがアレクサンドを抑えてのトップ。言語には強い。
「こうしてみると、本当にすごいわね……」
隣ではイザベラが目を輝かせていた。きっとアレクサンドのことを言っているんだろうなと思いつつ、無粋なのでそれ以上声はかけないことにする。
人混みから離れると、アレクサンドとレオナルドがこちらへ歩いて来ていた。軽く礼をすると、アレクサンド達は頷く。
「姉上、成績どうでしたか?」
「見事にみんな上位よ。レオナルドは総合四位だった」
「頑張ったじゃないか」
尊敬する兄であるアレクサンドに褒められて、レオナルドは照れたように笑う。
「二学年では、アレクサンド殿下が一位でしたわ。全てをまんべんなくこなせるなんて、本当にすごいです」
落ち着いた様子でイザベラはアレクサンドを褒める。彼は軽くお礼を言い、微笑んでいた。これは、イザベラを売り込むチャンス!
「イザベラは総合二位だったの! 一位はヤコブで、私は三位。負けてしまったわ」
「そんな、私なんて……」
照れたように止めに来るイザベラ。しかし、アレクサンドは褒めることを忘れなかった。
「そうなんだ。リリアンナに勝るとはね。本当におめでとう」
笑いかけられながらそう言われ、イザベラの頬が赤みを帯びる。俯きながら言われる「ありがとうございます」の言葉は小さくて聞き取れなかった。
そこで私は、とある違和感に気付いた。イザベラはゲーム内で全ての成績において七位にいたはずだ。各ステータスが彼女を超えられるかで、ゲーム内の攻略状況が変わる。それなのに、何故彼女は二位だったんだろう。
そう思ったが、今はまだゲーム本編開始前。それに、私と仲良くないなら一緒に王妃教育を受けているのだ。これくらいは出来て当然かもしれないと思い、私は考えるのをやめた。
「おっ……わった~」
十日間の試験期間を終えて、私はぐっと背伸びをした。体中の凝りが軋むような感覚が何とも気持ちいい。
「お疲れ様です」
真後ろのヤコブがねぎらいの言葉をかけてくれる。一番後ろの席のレオナルドを見ると、机に突っ伏してぐったりしていた。彼らしい光景に思わず笑ってしまう。イザベラを見ると、疲れた様子は見られなかった。周囲の令嬢といつも通り会話をしている姿を見ると、さすがだなぁと感心してしまう。
「今日は午後は休講ですが、この後はどうしますか? 昼食とか」
「そうよね。どうしようかしら……」
「姉上、食堂行きましょうよ!」
急に声を掛けられ驚いてしまう。見るとレオナルドがにこにこ笑っていた。いつの間にか復活したようだ。
「兄上が労いのデザートを用意してるって言ってましたよ」
「そう言われると、行きたくなるわね」
少し考え、行くことに私は決めた。席を立つと、せっかくだからとイザベラにも声を掛ける。
「労いにってデザートが用意されているそうなの。食堂に行かない?」
「あら、良いわね」
イザベラも立ち上がり、四人で教室を出る。私と接することが多くなったことで、イザベラへの明確な悪口はすっかりなりを潜めていた。心なしか明るい彼女の様子に安心してしまう。シヴァやイザベラの侍女とも合流し、食堂に着くとすでにアレクサンドたちが到着していた。
王族専用の食堂は、試験の終わりを祝う穏やかな空気に満たされていた。窓からは柔らかな日差しが差し込み、磨き上げられたテーブルには、すでに見た目にも鮮やかな料理が並び始めている。
「試験お疲れ様」
「アレクサンド様こそ、お疲れ様です」
席に着くと、早速食事が運ばれてくる。最初に運ばれたのは、透き通った黄金色のコンソメスープ。続くメインディッシュは、ハーブとスパイスで香り高く焼き上げられた仔羊のローストで、その表面は食欲をそそる飴色に輝き、ジューシーな肉汁を湛えている。付け合わせの色鮮やかな地野菜は、ソースとのコントラストが美しく、皿の上は芸術品のようだった。試験明けのせいか、どれもいつも以上に美味しい気がする。
皆が料理を堪能し、会話が弾んだ頃、本命のデザートが運ばれてきた。ガラスの器に盛り付けられた豪華なタルトだ。艶やかなカスタードクリームの上に、収穫されたばかりの新鮮なベリーや黄金色の桃が溢れんばかりに飾られている。繊細な飴細工の蝶が添えられ、その甘く芳醇な香りが部屋中に広がる。私を含めた女性陣は、そのあまりの豪華さに感嘆の声を上げた。
口に入れると、甘さ控えめなさくさくのタルト生地にバニラの香り漂う甘いカスタードクリームが口の中に広がる。それに対し、ベリーや桃はさっぱりしているため飽きずに食べ続けられる。あまりの美味しさに、夢中になって頬張った。シヴァにも食べさせてあげたかったが、持ち帰りできないのが残念だ。
「で、本題なんだけどね」
食後の満足感に浸っている皆に、急にアレクサンドが声を掛けた。話を止めて皆がアレクサンドを見る。
「この後、二週間の長期休暇があるよね。休暇明けに、学園祭があるのは分かるかな?」
そうだ。すっかり忘れていたが、ゲーム本編でもあったエピソードだ。学園祭を誰と一緒に回るかで、誰のルートに進んだかがわかる。ここまでの成績や好感度が、ある程度のレベルに達していないと攻略対象にフラれてしまい、攻略難易度がさらに上がってしまうのだ。
アレクサンドのように、その時期に一番学園内で身分の高い者が運営代表者に選出されて、学園から声が掛かる。アレクサンドは去年同様、声を掛けられたのだろう。この話をしたくて、わざわざレオナルドが声を掛けたのだろうか? そう思い彼をちらりと見ると、気まずそうに口笛を吹いていた。絶対わざとだ。
「昨年もありましたネ。お手伝いさせて頂きましタ」
「昨年はありがとう。頼りだった先輩方は卒業してしまったし、今の三学年には特に人材もいないし……できればこのメンバーで運営していきたいと思っているんだ」
アレクサンドはティーカップを静かにテーブルに置くと、皆に視線を投げかける。その真剣な眼差しに、一同の間に緊張感が走った。
「そういうことならぜひお手伝いさせて下さい。仕事内容は何がありますか?」
メガネをくいっと上げながらヤコブが尋ねた。レオナルドも明るい表情でアレクサンドを見ている。
「もちろん、兄上の手伝いはしますよ。ね、姉上」
「え、ええ」
私は不意に話を振られ、少し慌てて頷いた。私の隣で、イザベラは期待を込めた眼差しをアレクサンドに向けている。
「私も参加させて頂いてよろしいのかしら?」
「もちろん、頼りにしているよ」
アレクサンドの言葉に、イザベラは微かに頬を赤らめながら微笑む。彼女に耐性ができたので、今までのようにあからさまな好意を向けている様子は見られず、ポーカーフェイスを貫いている。その控えめな様子がなんともいじらしく可愛らしい。
「休暇中に、何度か呼び出しても良いかな? 念のため、今判明しているスケジュールは手紙で教えて欲しい。追って連絡するよ」
皆が真剣な表情で頷き返す。
真剣な表情をしているが、一学年である私を含めた面々は心なしか嬉しそうだ。私だって、ゲーム本編のイベントに関われることにドキドキしてしまう。ゲーム本編では各クラスごとの出店や、研究発表が主だった。許可が取れれば周辺の商店も出店を行い、周辺の貴族達が集まる一大イベントになるはずだ。私はシヴァ目当てにアレクサンドしか攻略していないが、青空に花火が打ち上がっているスチルは美しかった。
あの光景を目の前で見られるなんて、わくわくする。胸の中であの光景を思い出しながら、私はアレクサンドの言葉に耳を傾けた。
***
休暇までの残り三日。その間に廊下には、各学年の上位成績者が貼り出されていた。多くの生徒たちが押し寄せ、廊下は興奮した人混みに包まれている。私もイザベラと肩を並べ、人々の間を縫って掲示板の前にたどり着いた。周囲は成績への期待と不安が入り混じった明るい雰囲気だ。
各試験内容と、総合評価の上位者十名までが書かれている表を見る。頑張ったつもりではあるが、成績はどうだっただろうか。それに、皆の成績も見てみたい。
「見て! 魔法の実技はリリアンナが一位よ」
「イザベラこそ、筆記試験二位じゃない。淑女クラスも二位よ」
私は筆記試験は欄外だったらしく、載っていなかった。しかし、さすが魔力は多いし通常よりも早い時期から魔法訓練をしていたのだ。魔法で負けることは無い。
続いて選択クラスを見ると、淑女クラスでは私が一位だった。王妃教育まで受けているのに、他に負けてしまっては面目が立たない。ロミーナにライ語を学んでいた成果も発揮されているのだろう。後でお礼を言わなくちゃ。
「リリアンナは淑女クラス一位じゃない。さすがに王妃教育を受けているだけあるわ」
明るくイザベラは褒めてくれるが、そんな私と僅差であるイザベラが凄いのだ。文官クラスではヤコブが圧倒の一位だった。レオナルドはと言うと、無難にどの科目も五位をキープしている。全て五位とか、地味に凄いかもしれない。
最後に総合成績を見てみる。一位はヤコブ・ヘルトル。魔法実技以外はほぼ満点だったようだ。さすがだなと思いながら周囲を見ていると、人混みの中、ほっと胸を撫で下ろしている彼が見えた。成績上位者でなければ、あの王族専用食堂を使ったり、アレクサンドの側近候補でいることはできない。この成績は彼にとって死活問題でもあるのだ。
二位はイザベラ・ナンニーニ。一位こそ取らないものの、安定して三位以内には入っていた結果だろう。三位が私、リリアンナ・モンリーズ。筆記試験は劣る所があるものの、淑女クラスや魔法などの実技の高得点で助かった。四位にはレオナルド・リヒハイム。安定して全て五位を取っているというのが、総合成績で響いたようだ。
いつものメンバーが全員上位にいて、ほっと一安心する。一息つくと、私は二学年目の成績を見に場所を移す。
総合一位は文句なしにアレクサンドだった。次いでロミーナ、ステファンが並ぶ。あの面々はさすがだ。特に外国語に関してはロミーナがアレクサンドを抑えてのトップ。言語には強い。
「こうしてみると、本当にすごいわね……」
隣ではイザベラが目を輝かせていた。きっとアレクサンドのことを言っているんだろうなと思いつつ、無粋なのでそれ以上声はかけないことにする。
人混みから離れると、アレクサンドとレオナルドがこちらへ歩いて来ていた。軽く礼をすると、アレクサンド達は頷く。
「姉上、成績どうでしたか?」
「見事にみんな上位よ。レオナルドは総合四位だった」
「頑張ったじゃないか」
尊敬する兄であるアレクサンドに褒められて、レオナルドは照れたように笑う。
「二学年では、アレクサンド殿下が一位でしたわ。全てをまんべんなくこなせるなんて、本当にすごいです」
落ち着いた様子でイザベラはアレクサンドを褒める。彼は軽くお礼を言い、微笑んでいた。これは、イザベラを売り込むチャンス!
「イザベラは総合二位だったの! 一位はヤコブで、私は三位。負けてしまったわ」
「そんな、私なんて……」
照れたように止めに来るイザベラ。しかし、アレクサンドは褒めることを忘れなかった。
「そうなんだ。リリアンナに勝るとはね。本当におめでとう」
笑いかけられながらそう言われ、イザベラの頬が赤みを帯びる。俯きながら言われる「ありがとうございます」の言葉は小さくて聞き取れなかった。
そこで私は、とある違和感に気付いた。イザベラはゲーム内で全ての成績において七位にいたはずだ。各ステータスが彼女を超えられるかで、ゲーム内の攻略状況が変わる。それなのに、何故彼女は二位だったんだろう。
そう思ったが、今はまだゲーム本編開始前。それに、私と仲良くないなら一緒に王妃教育を受けているのだ。これくらいは出来て当然かもしれないと思い、私は考えるのをやめた。

