至上最幸の恋

 オレはただ絵を描きたい、描き続けたいだけだ。明確な芯があるはずなのに、なぜこんなにも揺らぐんだ。

 多くの人の心に深く(くさび)を打ち込むような絵が描ければ、なにかが変わる。この堂々巡りから、きっと抜け出せる。だから必死に描かなければならない。
 分かっているはずなのに、制作は遅々として進まない。

 そして鬱々とした気分を引きずったまま、コンサート当日を迎えた。

「……なぁ。やっぱり、スーツのほうがよかったんじゃないか?」

 コンサートホールの入口に吸い込まれていく華やかな客層を眺めながら、慧が言った。

「別に大丈夫だろ。ドレスコードがあるわけでもねぇし」
「お前、こういうのを本当に気にしないよなぁ……」

 確かに、周囲はアフタヌーンドレスやブラックスーツに身を包んだ客が目立ち、中途半端な装いでは場違いな気がしてくる。 もっとも、オレも慧もジャケットにスラックスなので、最低限の格好はついているはずだ。

「お前は気にしすぎじゃないのか?」
「いーや、瑛士が無頓着すぎるだけだな。招待してもらったのに、プレゼントのひとつも買ってこないし」

 慧の腕には、立派な花束が抱えられていた。こういう細やかな配慮ができるところは、素直に感心する。オレはそこまで気が回らなかった。