至上最幸の恋

「せっかくなので、行きます。明日の仕事帰り、チケットを取りに伺いますね」
「エリサさんも喜ぶよ。君の制作にも、いい刺激になるんじゃないかな」

 確かに、このどん詰まりの状況を打開するきっかけになるかもしれない。それに、ただ純粋に、彼女がどんなピアノを弾くのか聴いてみたいという好奇心もあった。

「明日、どこか行くの?」

 電話を切ったあと、律が話しかけてきた。

「桂木さんのギャラリーに、コンサートのチケットを取りに行ってくる」
「コンサート?」
「この前、話しただろ。昔ウィーンで出会ったピアニストのこと」
「あぁ……エリサ・ラハティさん?」

 ちゃんと覚えていたのか。しかも、フルネームで。

「その方のコンサートなの?」
「ああ。来週の日曜日、14時からだと。チケットは2枚あるらしいから、一緒に行くか?」

 ここのところふたりで出かけることもなかったし、たまにはいいかと思って誘ってみたが、律は浮かない顔をした。
 
「んー……前日がね、職場の飲み会なのよ。お世話になった方の送別会で」
「遅くなるのか?」
「きっと終電コースかな。バタバタしたくないし、優子の家に泊めてもらおうかと思って。うちより、お店に近いから」

 会社の同僚か。歳が近くて気が合うから、よく一緒にランチをしていると言っていた相手だ。