至上最幸の恋

「エイシ、なにかいいことがあったのかい?」

 宿に戻ると、ラウロが英語で陽気に話しかけてきた。

「そう見えるのか?」
「そうだね。なんだか、目が輝いて見えるよ」

 ラウロはイタリア人で、オレと同じようにバックパックひとつで旅をしているらしい。オレより3歳年長で、一昨日から、この宿の同じ部屋で過ごしている。

 ここは日本円で1泊1,000円もしない安宿だが、比較的清潔なうえ、ベッドの寝心地も上々。1階はバーで、宿の宿泊者が自由に交流できるようになっている。ウィーンの中心部からは少し離れているものの、地下鉄の駅が近く、利便性は悪くない。

 スタッフのほとんどが英語を話せるし、ドイツ語が分からないオレでも不自由することはなかった。

「市立公園で、妙な女にプロポーズされた」

 カウンターでビールを頼むと、ラウロは嬉々とした表情で同じものを頼み、横に座った。

「プロポーズだって? 情熱的だなぁ。初対面なんだろう?」
「ああ。公園でスケッチしていたら、いきなり自分と結婚してほしいだと」

 ビールを受け取り、喉に流し込む。オーストリアのビールは、全般的に苦味が効いているが、意外にフルーティだ。食事と一緒に飲むと、ついつい杯を重ねてしまう。