至上最幸の恋

「分かりました。それでは明日16時に、私もここへ参りますね。また瑛士さんにお会いできると思えば、レッスンも頑張れますわ。帰ったら、さっそくクッキーを焼かなくちゃ」

 無邪気に笑う姿を見ると、胸の奥がざわざわする。それを抑え込みながら、いそいそと去っていく後ろ姿を見送った。

 オレがウィーンへ来たのは、たまたまだ。
 いつも計画を立てずに空港へ行き、そのとき乗れる飛行機によって、どこを旅するのか決めている。今回は、なんとなくオーストリアへ行きたいと思った。それがなぜなのかは、分からない。

 こういうものは、すべて運命なのだと思っている。理屈ではなく、自分の中に刻み込まれている遺伝子によって突き動かされているのだろう。

 それでも、これが運命の出逢いだと思うほど、オレは恋愛に対して純粋ではなかった。
 これまで何人かと関係を持ったものの、恋い焦がれるなどという言葉とは程遠い感覚しかなかった。オレが本気で情熱を向けられるのは、きっと絵を描くことだけだ。

 それなのに、別れたあともエリサの無垢な笑顔が頭に浮かぶ。
 間違いなく心は動いている。それは認めざるを得ない。ただ、相手は18歳の子どもだ。女としてではなく、人間として興味があるだけだと思った。