「あ、私のことは、気軽にエリサとお呼びくださいませ」

 そう言ったあと、エリサがオレのスケッチブックを覗き込む。まるで幼児のような仕草だった。
 
「瑛士さんは、画家でいらっしゃるの?」
「あぁ、まぁ。まだ院生……学生だけど」
「ふふ、同じですわね」

 同じ? なにがなんだ。反射的に訊ねそうになったが、堪えた。
 
「私も学生ですし、学生同士の結婚でも、なにも問題ありませんわ」

 ……まったく意味が分からない。天然という名の非常識か?
 大体18歳なんて、まだ子どもじゃないか。いくら大人びているとはいえ、7歳も下で未成年の女と結婚できるわけがないだろう。いや、それ以前に付き合うことすらまずい。

 しかし気になったことをつっこんでいくほど、深みにはまっていく気がする。ここは適当に流しておくのがベストだ……と、思っていたのに。

「瑛士さんは、こちらにお住まいなの?」
「いや、旅をしているだけ」
「まぁ、旅人! スナフキンみたいで素敵ですわ! それなら、お住まいは日本なのかしら?」
「……そうだな」
「東京ですか?」
「あぁ」
「23区内ですか?」
「一応……」

 なぜ質問に答えてしまうのだろう。
 危険だと思いつつも、このあまりに澄んだ銀鼠の瞳に見つめられると、どうしても邪険にできない。