至上最幸の恋

 挙式から8か月ほどが経ったころ。
 実家のリフォームが無事に終わりを迎えるタイミングで、エリサの妊娠が分かった。

「鎌倉で子育てができるんですね」
「ああ。住みたいって、ずっと言っていただろ」
「お父さまに感謝ですね」

 几帳面な父は、自分の身にいつなにがあってもいいよう、遺言を残していた。

 そこに記されていたのは、自分の死後、浅尾家の墓じまいをすること。そして、鎌倉の家のリフォーム資金を用意してあるということだった。

 できるだけオレに負担をかけたくない。そんな父なりの想いが伝わってくる。

「ピアニスト、モデル、瑛士さんの妻、母親。全部やりたいなんて、わがままですか?」
「いいんだよ。エリサのいろいろな顔が見られるのは、オレも嬉しいからな」
「ふふ。瑛士さんにしかお見せしない顔も、たくさんありますよ」

 結婚後、エリサは以前よりも仕事量を減らしている。

 初の写真集が売れに売れているさなかの結婚発表によって、エリサはさらに多くの女性から支持されるようになった。そんな彼女の仕事を減らすことは、事務所にとっても痛手だったと思う。

 それでも社長やマネージャーは、エリサの幸せを優先させてくれた。

 仕事と家庭を両立する女性のロールモデルになってほしい、という考えもあるのかもしれない。いずれにしても、オレたちの生活を尊重してくれるのは、非常にありがたいことだった。

「名前、どうしますか?」

 庭を見渡せる縁側に座って、エリサが言った。